開催説明会 記念講演要旨

真野 博司 氏が記念講演  「企業誘致フェア2010」の開催説明会とともに実施した、(株)産業立地研究所 代表取締役 真野博司氏による記念講演は大変盛況でした。以下はその講演内容の要約です。(文責:事務局)

記念講演
地域活性化のための企業誘致戦略
真野 博司 氏
(株)産業立地研究所 代表取締役
真野 博司 氏

今期も右肩下がりの立地動向

 経済産業省の工場立地動向調査によると、平成15年から19年までの工場立地は右肩上がりが続いた。今後も増加の一途を辿るのではないかと考えていた。私は日経ビジネスの20年10月号のインタビューで、「企業の用地需要は底堅いものがある」とコメントしたが、その後、にわかに状況が悪くなった。20年は1,631件、2,181ha (ヘクタール)と、前年比で件数は8.9%、敷地面積は20.4%のマイナスとなり、すとんと右肩下がりになってしまった。21年上期がどうなるかと注目していたが、件数は434件と前年同期の824件のほぼ半分に、敷地面積も631haと前年同期の973haの2/3程度となってしまった。
 サブプライムローンに端を発したリーマンショック、そして100年に一度の世界同時不況が国内の工場立地に大きな影響を与えた。それでは下期あるいは今後どのようになるかだが、下期の回復は期待はできそうにない。そうなると、21年度の立地件数は1,000件、面積は2,000haを割りそうだ。20年度に続き右肩下がりの状況となろう。

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高い“国内立地”ニーズ

 日本経営協会が開催した今年夏の「企業誘致フェア2009」の来場者アンケートの「企業立地の検討先または希望地域」に対する回答をみると、65.5%が国内立地を希望している。このようなニーズは今後も余り大きく変わらないだろう。また、このフェアの来場目的としては立地動向や立地情報収集のためが 62.7%と最も高くなっており、主催者側の開催意図と来場者のニーズとが概ね合っている。マッチングの場に相応しい。
 ものづくりは日本経済の根本だ。工場立地は「適地適産の原則」に則って、世界を舞台に立地が進む。適地適産とは一言でいえば、国内・海外を問わず、企業にとって一番都合のよい場所に工場を立地することである。
 しかし、今後の国内立地が近年のピークである平成元年の4,157件・4,725haのようにはならないだろう。世界市場に適地適産で対応するので、国内立地あり、海外立地ありということだ。かつて海外立地が急速に展開した時に、「日本からものづくりがなくなってしまうのではないか?」と一部で言われていたが、それが14年ごろからものづくりの国内回帰が始まり、15年から上向きに転じ、それがまた下降に転じたが、今後もこういうことの繰り返しなのだろう。右肩上がりの15年から19年までの立地件数の年平均は1,149件である。21年はともかく今後も1,500件前後で推移するのではないかと思う。

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環境・新エネルギー産業に明るい芽
 だが、半導体産業新聞を発行している(株)産業タイムズ社の泉谷社長兼編集局長は、「世界は大きく低炭素社会づくりに向って展開をしている。環境・新エネルギー産業の時代だ。環境自動車、次世代自動車、太陽電池、発光ダイオード、高度素材などが国内で積極的な設備投資を行なっていくだろう。各社を取材みると、大きな設備投資を考え、さらには工場適地を水面下で探している」と明るい話を聞かせてくれた。
 また、先週、ある会合で大手IT関連企業の社長と話す機会があった。データセンターの立地需要に興味があったたので、今後の需要について尋ねてみたところ、「先行きは今の10倍の需要が生ずる。大都市圏とともに、これからは地方圏へもデータセンターが展開していく」ということだった。更にデータをお願いしていたら、「データセンターの2008年の売上は7,669億円、年成長率は12.7%で2012年には1兆2,000億円を超えると予測されている」とのメールを頂いた。10倍は将来のこととしても、かなりの立地需要が発生するようだ。ものづくりは国内工場の再編成、閉鎖といったように、余り明るくない話が多い。データセンターは狙い目だ。
 話が前後するが、確かに低炭素社会に向けた環境・新エネルギー産業については明るい見通しがある。専門紙などを読んでいても、太陽電池の工場進出などが毎号紙面を飾っている。これらの投資で立地は一巡してしまうのかというと、泉谷社長によれば、「これは1期計画であり、更に2期、3期と計画が進む」ということである。
 いわゆるグリーンニューディールに関わる投資は世界全体で30兆円に及び、これが先行き100兆円になるだろうと言われている。環境・新エネルギー産業、これも我が国ものづくり企業が得意とするところであり、世界のグリーンニューディール政策の実施は日本の企業なくしては実現できないとも言われている。そうだとすれば、日本の企業は世界市場に対して多くのものを造りだし、送り出していかなければならない。そうしているうちに国内立地も増え、海外立地も増えていくというようなことで、あまり悲観的になる必要はないと考えている。
 日本のものづくりの戦略について、企業の方々に聞いたことや新聞・雑誌等で読んだことを整理してみると、日本はマザー工場に特化していくようだ。また、高付加価値製品、高機能製品、基幹部品も国内で造って、海外に提供するということになる。国内のものづくりはより高付加価値化への転換が急速に進んでいくだろう。そして、結論としてはこれからも工場立地は進み、国内はイノベーションの場としてますます強化されていくことになるだろう。
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国内立地する理由は

 経済産業省が2007年に調査した企業の国内立地の理由を紹介する。
 国内に立地し、主に海外に輸出する企業の理由は、第一は国内の方が優秀な人材を確保しやすいからが約55%、第二は本社や既存の国内拠点との近接性が重視されるからが約50%、第三は国内の顧客との近接性が重視されるからが約40%であった。
 国内に立地し、主に国内に供給する企業の理由は、第一は国内の顧客との近接性が重視されるからが約70%、第二は本社や既存の国内拠点との近接性が重視されるからが約40%、第三は国内に魅力ある市場があるからが約25%という結果であった。
 国内立地の理由が良く分かる調査だ。
 一般紙を読むと、海外立地のニュースは大きな扱いだが、国内立地のニュースは工場再編とか工場閉鎖などが大きく扱われていることがある。これだと海外立地ばかりが目立つ。だから私は仕事柄、専門紙を合わせ読むようにしている。日本立地ニュース社の先日の報道によると、本年8月に工場用地を取得した企業は約 100件である。単純に年間に直すと1,200件でそれほど多いわけではないが、100件の中には、大学が研究所を別のところに立地するとか、ワタミに代表されるような企業が食材関係の工場を立地するといったように面白いニュースが一杯載っている。
 こういったミクロ情報を良く把握しておくことが必要だ。

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企業誘致戦略のポイント

 何れにしろ、自治体の企業誘致競争は激しくなる。それに打ち勝つ戦略を述べる。

●独自の産業政策と企業誘致戦略の位置づけの明確化

 第一は、自治体が独自の産業政策を策定し、戦略産業の設定、立地環境整備及び支援策を明確にすることである。これにより企業は自治体がどのような企業誘致、産業集積を目指し、そのためにどのような立地環境整備をしようとしているかを把握できるので、それを念頭に置いた立地戦略を展開することができる。一方、自治体は戦略産業の誘致を産業政策の中で位置づけることにより、立地環境整備を計画的に展開でき、また思い切った優遇措置や縦割り組織を超えた許認可事務、雇用斡旋、住宅斡旋などのワンストップサービスを円滑、迅速に実施することができる。企業立地促進法に基づく基本計画は地域ごとの誘致対象業種を旗幟鮮明にしている。これは地域独自の産業政策だと考えてられる。何れにしろ、自治体を挙げての大きな政策課題が企業誘致であるということを全庁が認識することが必要だ。

●地域別企業誘致戦略の策定

 第二は、地域別に企業誘致戦略を立てることである。大分以前に県から戦略的企業誘致方策策定の委託を頂いたことがある。全県の戦略を立てるということだったが、同じ県といっても広くて、また A地域、B地域、C地域とでは立地条件が違い、地域の経営資源も異なっている。そこで私どもは県内を幾つかのブロックに分けて、それぞれの立地条件、経営資源を検討し、何が企業誘致のセールスポイントになるかを評価し、それとの関係でブロックごとに戦略的誘致業種を選定、キャッチコピーも作ってみた。

●企業誘致は県内・県外企業の両輪で

 第三は、企業誘致は県内企業と県外企業の両輪立てを目指すことである。至極あたりまえのことであるが…。工場立地動向調査をみると、全国の立地件数を100とした場合、そのうちの 70は同一県内企業の立地であり、残りの30が県外企業の立地となっている。この比率は毎年余り変わっていない。つまり、県内企業の立地が根強いということだ。県外企業にアプローチするとともに、県内企業をしっかりフォローしなければならない。昔からの地元企業の拡大を地域内で実施してもらうとともに、既に誘致した企業の第二、第三工場を地域内で立地してもらうよう働きかけていくことが重要である。そのためには、自治体の地域企業のご用聞き周りが大切だ。これに成功している自治体が少なくない。

●助成金などの優遇措置の強化

 第四は、助成金、税軽減など優遇措置を強化することである。私はある大都市の企業誘致推進本部審査部会の委員を仰せつかり、最高50億円の助成金交付と税軽減措置対象案件の審査を行っている。企業の評判は良く、この制度もあって誘致件数が増えている。しかし、「高額助成金交付制度は誘致の決めてにならない」という見解が一部にある。この市の見解ではないが…。確かに企業は高額助成金があるからだけで立地するわけでないが、自らが必要とする立地条件を満たした候補地域が複数あり、甲乙つけがたい場合、高額助成制度のある方を選択することが多い。また、高額助成制度など優遇措置のある地域をまず選び出し、その上で立地条件の検討に入る企業もある。海外が高額助成制度などで外国企業の誘致に成功していることや、これに惹かれて海外立地している企業も多いことも忘れてはならない。
 懇意にしている企業の担当者に聞いてみると、何れも「大企業たる我が社が高額助成金に惹かれて、あたかも立地したように思われては沽券に係わるが、実際には結構な制度ではないか」と答えてくださる。
 高額助成金などの優遇措置を自治体の財政難だけから否定的に捉えてはならない。懐と相談してやればいい。ある大都市の場合も、検討の段階では高額助成金交付などは財政負担の面から難しいといった意見があったようだが、計算の結果、早くて5年、遅くとも10年あれば元が取れることが分かったので、実施に踏み切ったようだ。また、工場立地等の誘致に関連して派生する生産誘発効果、雇用誘発効果を測定したところ、助成金1に対して数十倍の効果がもたらされることが計算されている。
 例えば、アメリカのニューヨーク州では70のエンパイアゾーンを持っており、そこでは高額助成金、税制優遇措置等々を始めとするかなりの優遇措置を講じて、外国企業の誘致、国内企業の発展を支援している。
 懐の具合もあるかとは思うが、国や自治体が高額助成金交付など優遇措置を講じることはグローバル・スタンダードになっている。JETROには海外のそういう事例が沢山あるので、それらと比較しながら地域の優遇措置についても十分に検討されることが必要だ。企業は世界をみて動いているので、世界との企業誘致競争に勝てるような施策の展開が重要である。

●国際競争力のある立地環境の整備

 第五は、国際競争力のある立地環境を整備することである。これから企業誘致を進めていく際に注意しておく必要があるのは、単に工場を誘致するだけではなく、それとの関連を考えて産業集積形成を進めていくことである。そして、その産業集積をさらに産業クラスター形成に結び付けていくことだ。産業クラスターは国際競争力の強い基盤であるというのが世界の産業クラスターに共通したことであり、企業誘致から産業集積、産業集積から産業クラスター形成まで繋げていき、国際競争力の強い事業環境を創っていくことに力を注いで頂きたい。

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イノベーション・ホット・スポットの創出が必要

 企業立地促進法の正式名称は「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律」である。企業立地の促進のみが前面に出て、後に続く地域における産業集積の形成・活性化という文言が忘れられてしまいそうだが、法律の名称の示すところに即して企業誘致戦略を展開していく必要がある。
 これが産業クラスターのところで述べた背景でもある。また、これと関連しイノベーション・ホット・スポットを全国各地域で創出していくことが必要だと思う。イノベーション・ホット・スポットとは「起業を生み出すための頭脳(知財)と資本と人材が交わる拠点」である。これは2004年に当時のブッシュ大統領に対し、米国競争力協議会が「イノベート・ アメリカ」と題して提案したものであり、科学技術振興法の中にもその趣旨は十分に活かされている。イノベーション・ホット・スポットは、イノベーションを起こしていく拠点であり、産業クラスターの中でこのような機能をさらに強化していくことが大事である。世界の傾向は産業クラスターづくり、その中でのイノベーション・ホット・スポットづくり、そして地域において国際競争力の強い事業環境を創っていくということを狙って政策が展開されている。
 マイケル・ポーターのクラスター論を持ち出すまでもなく、世界の優れたクラスターを持つ地域は強い国力、地域力を持っている。クラスターには国際競争力のある多数の企業、大学などが集積している。経済産業省が来年度からこれまでの産業クラスター計画とともに、地域主導の産業クラスター計画を国が支援するということを検討しているようだが、地域は是非ともそれに取り組んでもらいたい。

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国際競争に強い事業環境創りが国内立地を促進する

 自治体の皆さんは、それぞれの企業誘致戦略をもって企業誘致に取り組んでいるが、地域に国際競争の強い事業環境を創っていくということが企業の国内立地を促進する大きな手立てになると思う。企業の立地は適地適産が原則なので、適地適産に相応しい国際競争力の強い事業環境を国内で創っていけば、当然、国内立地が増えていく。
 かつて日本が加工貿易立国を掲げていた時、鉄鋼、石油、石油化学、非鉄金属、造船などがリーディング・インダストリーだった。これらの国際的競争力を高めるために、国は広大な用地、大水深の港湾、大量の工業用水、大規模な電力など産業基盤を臨海部に整備し、これら産業の立地を誘導した。旧軍港敞の企業への払い下げ、新産業都市、工業整備特別地域などである。国や自治体が当時のリーディング・インダストリーのために、国際的競争力を高める基盤を整備したことによって、日本の企業は世界企業になった。
 しかし、今の国や自治体の政策には、空間という概念のもとに、企業の国際競争力の強い基盤づくりをするという視点が欠けているのではないだろうか。
 今の、将来のリーディング・インダストリーが求める国際競争力の強い事業環境を整備し、マクロ情報、ミクロ情報を見ながら企業がどのように動いているのかを把握しない限り、なかなか思ったようには企業誘致は実現しないと思う。
 なお、企業立地促進法に基づく47都道府県の160の基本計画はよくできているが、それだけに金太郎飴になってしまっている。私は160の計画があることは、企業から見れば選択肢が増えたことになるので大変結構なことであると日刊工業新聞に書いたことがあるが、実際のところは少し違うのではないかと思っている。世界は特定の地域を経済特区などに指定し、特別の優遇措置を講じ、企業誘致に専念しているが、日本は余りにも特別性がなく、何処も同じになってしまっている。
 次回のフェアには特性を絞り込んだ提案を期待している。

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