私たちの気分や感情はどこからやってくる? 〜微生物に支配される心と身体〜

私たちの気分や感情はどこからやってくる? 〜微生物に支配される心と身体〜
こころと暮らし
2026/05/22
連載:姫野友美の「脳と腸から人生を整える」

私たちの判断や感情、人との関係の築き方は、思っている以上に脳や腸の働きの影響を受けています。
その状態を整えることで、仕事への向き合い方だけでなく、家族や身近な人との関係、日々の行動や意欲のあり方にも変化が生まれていきます。
筆者は、心療内科医・医学博士として、ストレスによる不調や食事と心身の関係について、診療や著書、メディアを通じて発信してきた姫野友美先生。
本連載では、脳と腸のしくみを手がかりに、人生全体のコンディションを整える視点をお届けします。

(文:D-OMNi編集部)

私の中に「別のワタシ」が棲んでいる

近年の研究で、ヒトの身体は約37兆個の細胞から成っていることがわかりました。さらに驚かされるのが、それを上回る40〜100兆個以上の微生物(皮膚や腸内の常在菌)と共に私たちは生きていたのです。

これは細胞の数から見ると全体の10%ほどがヒトの本体で、残り90%は微生物が占めていることになります。
つまりヒトの遺伝子の90%は共生生物由来だったと言えます。

そのわかりやすい例として、私たちの細胞内でエネルギー(ATP)産生を行なっている「ミトコンドリア」の歴史を紐解いてみましょう。

ミトコンドリアは「細胞内小器官」と呼ばれており、外から体に入ってきたよそ者です。
電子顕微鏡でミトコンドリアを観察すると、ウネウネと動く細長い虫のように見えるので、いかにも外界からやってきたエイリアンという姿をしています。
ミトコンドリアがいつやってきたのか知るために、地球の誕生からお話していきます。
学校の授業で習ったように、およそ46億年前に地球が誕生して約30億年前に光合成が始まって酸素が発生しました。
そして約10~20億年前、私たちの祖先の生物が好気性菌であるミトコンドリアを取り込み、消化されずに居残ってしまったのです。

画像:生成AI作成
ミトコンドリアは酸素からエネルギーを作るため、取り込んだ祖先の生物にとってはエネルギー産生を効率よくできるという好都合の状態となりました。
宿主である生物の体内で生きながらえるために、こんなやりとりがあったのではと想像してしまいます。

 


ミトコンドリア
宿主さんが生きるための必要なエネルギーを私が作りましょう

祖先の生物
それなら私の中に住んでいいので、材料(食べた栄養や酸素)をどうぞお使いください
つまり大家と店子の関係になったわけです。

そして共生する長い進化の過程で、細胞内のエネルギー工場として存在するようになったと考えられています。
しかもミトコンドリアがヒトの細胞から生まれたのではなく、別の細菌由来とわかる理由がちゃんとあります(細胞内細菌説)。

  1. ミトコンドリアは独自のDNAを持っている。
  2. 外から取り込んだときにできた、二重の膜を持っている。
  3. 細胞内にリボソーム(細胞の中でタンパク質を組み立てる設計図)を持っている。など
これらの事実から、大昔はヒトとは別の生き物だった説が有力なのです。

 

お腹の調子と気分は連動している

このように私たちの身体の90%は、共生微生物によって維持されています。とくに共生微生物の代表・腸内細菌は脳内ホルモンの合成に関わっており、気分と腸内の状態はリンクしています。

これがよく耳にする「腸脳相関」という仕組みで、下のイラストのように、自律神経、ホルモン、免疫系の3つのルートのどこからでも脳が影響を受ければ腸の動きが低下します。
同じように腸の調子が悪くなると、脳の働きも低下してしまいます。

画像:生成AI作成
例えば強いストレスからイライラ状態が続くと、腸の蠕動運動が鈍くなって便秘になるのは、多くのみなさんがよく経験している”あるある”の不調だと思います。

つまり脳の健康状態は腸内環境が握っており、お互いにフィードバックし合っています。と言うことは、腸内環境を整えると風邪をひきにくくなるだけでなく、脳の働きもクリアになって気分も安定することにつながるのです。

私たちの健康は、腸に棲んでいる微生物のバランス次第なのです。

 

脳内ホルモンのバランスで性格も変わる?

心身の状態に深く関わる脳内ホルモンは、なんと性格傾向にも影響を与えています。

脳内ホルモンの図が示すように、ドーパミンは気力やモチベーションアップ、ノルアドレナリンは注意力や判断力、セロトニンは幸福感や安心感をもたらすホルモンで、3つのバランスがどちらに寄るかで気分が決まってくるのです。

画像:生成AI作成
ちなみに3つのバランスが絶妙に取れた状態(3つの輪の中央)になると、リラックスしているのに集中力も高まるという「ZONE」に入ることができます。

何より脳内ホルモンを作っているのは腸内細菌の働きで、なんとセロトニンは90%が腸内で合成されているのです。もちろんドーパミンやノルアドレナリン、GABAなども腸内細菌が作っており、それらのホルモンが神経を通じて私たちの行動をコントロールしているのです。

つまり陽気で積極的な人や天然ほのぼの系といった性格傾向も、腸内細菌が握っていると言っても過言ではないでしょう。
腸内細菌の働きと腸脳相関の関係性を知れば知るほど、そこに脳内ホルモンの影響を感じずにいられません。

私たちの感情や行動は、微生物に支配されているのです。
感情の揺れは、心だけでなく、腸や体の状態からのサインかもしれません。冷静に判断できない、周囲とうまく関われないと感じるときは、自分を責めすぎず、腸や脳のコンディションにも目を向けてみてください。

この記事の執筆者

姫野 友美(ひめの ともみ)

ひめのともみクリニック院長

医療法人社団 友徳発心会 ひめのともみクリニック 院長、元日本薬科大学薬学科 教授、心療内科医、医学博士。 東京医科歯科大学(現東京科学大学)医学部卒業後、九州大学医学部心療内科勤務を経て現クリニック開設。
テレビ東京「主治医が見つかる診療所」などラジオ、新聞、雑誌でもストレスによる病気・症候群などのコメンテーターとして活躍。
『心療内科に行く前に食事を変えなさい』(青春出版社)
男女のすれ違いを腸で解決する驚きの最新医学『急に不機嫌になる女 無関心になる男』(青春出版社)
『認知症になりたくなければラーメンをやめなさい』(講談社)など著書多数。
最新刊は『ごはんを変えると人生が変わる』(大和書房)

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キーワード:健康ライフメンタル悩み
連載名:連載:姫野友美の「脳と腸から人生を整える」
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