※本記事は、『オムニ・マネジメント』2025年9月号掲載内容を再編集のうえ掲載しています。
人口減少や少子高齢化が進むなか、自治体にはこれまで以上に難しい判断が求められています。
「アレもコレも」から「アレかコレか」へ――。限られた資源のなかで、地域の未来をどう描き、何を選び取っていくのか。
本連載では、自治体職員や自治体との協業に関わる企業の方に向けて、これからの自治体経営を考える視点をお届けします。
執筆者は、福島県磐梯町の旅する副町長をはじめ、公共・ビジネス・非営利の各分野で地域づくりに関わり、全国100以上の自治体と協働・共創を重ねてきた菅原直敏氏です。
(文:D-OMNi編集部)
2つの使命的動機
今回は、利害関係者としての首長について、使命的動機の視点から掘り下げていきます。
首長を志す動機として使命的動機が挙げられます。
首長としてミッション・ヴィジョンまたは特定の解消したい行政課題等が明確にある場合、この動機が強い首長である傾向があります。
政策重視型と特定争点型の2つの類型に分けて考察します。
政策重視型
政策重視型の首長は、選挙公約に具体性があり、例えばマニフェストのような公約集をしっかり明示することが少なくありません。
また、自らの政策ブレーンがいる場合もあります。
政策重視型の良い点は、主要公約については選挙の審判を受けているため、それを根拠に政策を推進しやすいということが挙げられます。
また、職員にとっても、首長の政策的な方向性が明確なため、首長当選後速やかに実務に取り掛かることができます。
一方で、政策重視型の問題点は、政策集の内容に固執しすぎると、政策転換の柔軟性が失われる点です。
また、数値目標等を掲げた場合、その内容に誤りや実現性の低さがあると、住民や議会から厳しい批判にさらされ、自治体経営の停滞を招くことがあります。
例えば、選挙公約に「4年間で200 万戸分の太陽光パネルを設置する」と掲げた首長候補や、新型コロナウイルス感染症拡大期に高額な給付金の支給を訴えた首長候補が、当選後に実際にそれらの公約を実現できず、議会から大きな批判にさらされた事例があります。
特定争点型
次に特定争点型の首長は、施設建設の是非のような特定の争点に対して立場を鮮明にして立候補する場合
です。
この場合、市民運動の中から首長候補が担がれることもあり、その運動の支援者等が政策推進を強く後押しすることがあります。
特定争点型の良い点は、首長が明確な争点の下に当選しているため、やることが極めて明確な点です。
特にそれが長期に渡り争点であった課題である場合、自治体経営を大きく前進させる原動力にもなります。
一方で、特定争点型の問題点は、選挙結果が僅差であった場合、住民間の対立を生む可能性があることです。
また、首長と議会の選挙において争点に対する民意がずれることもあり、その場合はより対立が深刻になります。
例えば、庁舎移転を掲げて当選した首長が、反対派が多数を占める議会と対立し続けるという事例がありました。
この間、庁舎移転を巡る施策は混迷し、当初の完全移転を首長は諦め、建設費の高騰により多額の税金の追加投入が必要になる見通しとなりました。
なお、訴えることが明確であっても、必ずしも使命的動機に基づく首長ではない場合もあります。
例えば、
かつて流行した「多選自粛条例」の公約を例にとると、
腐敗防止という使命感に基づく場合もあれば、単に現職との対立軸を打ち出すための選挙技法にすぎないこともありました。
中には、自ら制定した条例を無視して再立候補する事例もあり、外形的には見抜きにくい
「使命感の真偽」が浮き彫りとなります。
使命感は常に善か?
以上より、使命感に溢れる姿勢は人として尊い一方で、自治体経営の視点からは必ずしも良い点ばかりではありません。
また、首長の溢れる使命をいかに行政実務に円滑に反映させていけるかが、経営手腕の見せ所となります。
読者の皆さんの地域では、使命的動機が強い首長がいたでしょうか?
その時、行政経営はどう変わったでしょうか?
次回は、使命的動機を「停滞」ではなく「推進力」
として活かし、「使命感」と「柔軟性」を両立するた
めの自治体経営の工夫について掘り下げていきます。
引き続き「自治体経営への旅」にご一緒いただければ
幸いです。
画像:生成AI作成
この記事の執筆者
菅原 直敏(すがわら なおとし)
福島県磐梯町「旅する」副町長
旅人、ソーシャルワーカー及び経営者。2024年4月より福島県磐梯町「旅する」副町長に就任。
共生社会の共創をミッションに、日本初の自治体CHRO(最高人事責任者)として、「働き方の再デザイン」を牽引する。
一般財団法人旅代表理事、CoCo Consulting 株式会社代表取締役として、非営利団体、営利企業の経営も行なっている。