※本記事は、『オムニ・マネジメント』2025年8月号掲載内容を再編集のうえ掲載しています。
人口減少や少子高齢化が進むなか、自治体にはこれまで以上に難しい判断が求められています。
「アレもコレも」から「アレかコレか」へ――。限られた資源のなかで、地域の未来をどう描き、何を選び取っていくのか。
本連載では、自治体職員や自治体との協業に関わる企業の方に向けて、これからの自治体経営を考える視点をお届けします。
執筆者は、福島県磐梯町の旅する副町長をはじめ、公共・ビジネス・非営利の各分野で地域づくりに関わり、全国100以上の自治体と協働・共創を重ねてきた菅原直敏氏です。
(文:D-OMNi編集部)
3つの動機
今回から数回にわたり、利害関係者としての首長について取り上げていきます。
地方自治法第139 条において、都道府県には知事を、市町村には市町村長を置くと定められています。
知事や市町村長のような首長は、住民の選挙によって選ばれるという点で公選職であり、いわゆる政治家としての側面と組織のトップとしての側面の両方を持ち合わせています。
首長の考えは、組織に大きな影響を与えるため、首長の行動原理を知ることは、自治体経営を考える上での要と言っても過言ではありません。
さて、私が首長自身の行動原理を把握する際に注視することがあります。
それは、首長であることへの動機です。この動機は3つの視点から分析することがで
きます。
使命的動機、経済的動機及び名声的動機です。
使命的動機
まず、使命的動機とは、首長として何をしたいかということです。
ミッション、ヴィジョンを明確に持ち、
それらを実現することに対して熱心な首長は、使命的動機が強い傾向があります。
なお、使命的動機が強いことは素晴らしいことではありますが、これが行き過ぎると、自己の考え方に固執して、議会や職員等との衝突が生まれることもあります。
経済的動機
次に、経済的動機とは、首長として経済的対価を求めるかということです。
首長になる人すべてが、経済的に収入が不要な方であるとは限りません。
首長の給与はその組織においては最も高く設定されており、4
年間の任期としては相対的に高額な退職金も用意されています。
なお、経済的動機がある程度あることは人として自然なことはありますが、これが誤った方向に向かうと、汚職等につながることもあります。
名声的動機
最後に、名声的動機とは、人から認められたいということです。
例えば、海外の自治体では首長が名誉職であることも珍しくありません。
日本においても、名
誉的な立場につき、地域・社会に貢献できること自体に強い動機を感じる人は少なくありません。
なお、首長であることが名誉的であることは大切な動機づけですが、これが歪んだ方向に向かうと、首長という立場にいること自体が目的化してしまうこともあります。
首長の「やる気のスイッチ」をどう見極めるか
これらの3つの動機の強さは人それぞれですが、ある首長がこれらのどこに動機の均衡点があるかを把握できると、首長のいわゆる「やる気のスイッチ」がわかります。
ところで、職員は、これらの首長の行動原理がよく理解できないために、しばしば振り回されることがあります。
首長も職員も「地域のため」に働いているという建前は共通しますが、お互いに見えている風景やその基となる行動原理は大きく異なっていることを念頭に置いておく必要があります。
特に職員が理解できない点があるとすれば、首長が選挙で選ばれていることの感覚です。
首長の権力の源泉は公選であることであり、主権者は住民です。
したがって、ある取組が住民受けするか否かは、多くの首長が判断する際の重要な要素となります。
どんなに素晴らしい政策や施策が職員から提案されても、首長の中にはこの住民受けという点が満たされないと、判断が鈍ることもあります。
一方で、住民受けが良いと判断されれば、その政策や施策の内容に疑問符が客観的にはついていたとしても、実施する判断が下されることがあります。
そこで、自分達の実現したい政策や施策を上手く進めていく職員の中には、この首長の特性を念頭に、住民受けと政策効果の両方をバランス良く満たす提案をすることに長けている傾向があります。
つまり、首長
の「やる気のスイッチ」を把握し、上手に首長を逆マネジメントする力量をもっています。
次回から、3つの動機を基軸に首長について掘り下げていきます。
自治体経営への旅にご一緒して頂けたら幸いです。
画像:生成AI作成
この記事の執筆者
菅原 直敏(すがわら なおとし)
福島県磐梯町「旅する」副町長
旅人、ソーシャルワーカー及び経営者。2024年4月より福島県磐梯町「旅する」副町長に就任。
共生社会の共創をミッションに、日本初の自治体CHRO(最高人事責任者)として、「働き方の再デザイン」を牽引する。
一般財団法人旅代表理事、CoCo Consulting 株式会社代表取締役として、非営利団体、営利企業の経営も行なっている。