【No.7】利害関係者から考える自治体経営(首長編)その3

【No.7】利害関係者から考える自治体経営(首長編)その3
組織とマネジメント
2025/10/01
連載:「旅する」副町長の自治体経営への旅

※本記事は、『オムニ・マネジメント』2025年10月号掲載内容を再編集のうえ掲載しています。

人口減少や少子高齢化が進むなか、自治体にはこれまで以上に難しい判断が求められています。
「アレもコレも」から「アレかコレか」へ――。限られた資源のなかで、地域の未来をどう描き、何を選び取っていくのか。
本連載では、自治体職員や自治体との協業に関わる企業の方に向けて、これからの自治体経営を考える視点をお届けします。
執筆者は、福島県磐梯町の旅する副町長をはじめ、公共・ビジネス・非営利の各分野で地域づくりに関わり、全国100以上の自治体と協働・共創を重ねてきた菅原直敏氏です。

(文:D-OMNi編集部)

使命的動機が停滞につながる場合とは

今回も、利害関係者としての首長について、使命的動機の視点から掘り下げていきます。

使命的動機とは、首長として「何を実現したいか」という強い意思です。
政治信条や理念、将来像を基盤に政策として表れ、選挙の場では住民が候補者を評価する重要な基準となります。
当選後には、首長を突き動かす大きなエネルギー源となり、行政経営全体の方向性を決定づけます。

一方で、政策重視の姿勢がかえって行政経営の停滞を招くこともあります。

大きく分けて、
  1. 政策の根拠に問題がある場合と、
  2. 合意形成に問題がある場合があります。
以下、それぞれを見ていきます。

1.政策の根拠に問題があった場合

首長選挙に挑む候補者は、特に新人の場合、役所の内部情報や専門スタッフを十分に活用できません。

政策を練るには限られた時間と資金の中で、多くを自ら負担せざるを得ず、詳細な政策集を作ること自体が大きな重荷となります。

内容が広範で細部に及ぶほど、候補者自身に求められる説明責任は増し、選挙後にはその内容が厳しく検証されます。
この段階で根拠が乏しい政策を掲げると、数値目標や施策が現実味を欠き、実行不能として批判されます。
とりわけ議会との関係が緊張している場合には、批判が対立に転じ、行政経営を停滞させることになります。

必要なのは、誤りを認めて謝罪し、柔軟に修正する姿勢です。
政策の撤回や再検討は短期的には痛みを伴いますが、中長期的には信頼を取り戻し、他の政策推進にプラスの効果をもたらします。

反対に、誤りを否定して固執すれば、議会との面子争いに陥り、行政全体が硬直する危険性が高まります。

2.政策の合意形成に問題があった場合

政策の中身に欠陥がなくても、議会や関係者との合意形成が不十分であれば、行政経営は停滞します。
例えば、本来は議会に最初に説明すべき重要案件を、首長が記者会見等で先に発表してしまった場合です。
こうした行為は「議会軽視」と受け止められ、不信感を呼び起こします。

小さな行為の積み重ねが、やがて大きな対立につながるのです。

この場合に求められるのも、率直で真摯な謝罪です。
誤りを明確に認めることが信頼回復の第一歩になります。

また、日常的に議員への説明責任を意識し、政策形成の過程を丁寧に共有することで、摩擦を未然に防げます。
首長だけでなく職員もまた、説明責任を果たす姿勢が必要です。

近年も、ある自治体で首長の経歴問題が大きな政治的争点となり、最終的には議会解散にまで発展しました。
もし初期段階で誠実な説明と謝罪が行われていれば、事態はより円滑に収束していた可能性があります。

この事例は、合意形成の不備が行政全体を揺るがすほどの影響を持つことを示しています。

まとめ

選挙で民意を受けて当選した首長の政策は重みを持ちます。
しかし、問題が生じたときに固執すれば行政経営を停滞させます。

誤りを認め、謝罪し、必要に応じて政策を修正・撤回する柔軟さが不可欠です。
こうした姿勢は行政を前進させ、議会や住民との信頼関係を強化する力となります。

加えて、首長の姿勢だけでなく、組織的な支援体制も重要です。
職員による情報整理や助言、議会との定期的な協議の場の設置、住民説明会など、補完的な仕組みが不可欠です。
これらの仕組みによって首長の孤立を防ぎ、行政経営を持続的にします。

使命的動機は行政経営の根拠である一方、扱いを誤れば停滞の要因にもなります。
その力を柔軟に推進力へ転化することこそ、首長に求められるマネジメント力であり、行政経営における合意形成の技術といえます。

次回は、首長と経済的動機について掘り下げていきます。
引き続き「自治体経営への旅」にご一緒いただければ幸いです。

画像:生成AI作成

 

この記事の執筆者

菅原 直敏(すがわら なおとし)

福島県磐梯町「旅する」副町長

旅人、ソーシャルワーカー及び経営者。2024年4月より福島県磐梯町「旅する」副町長に就任。 共生社会の共創をミッションに、日本初の自治体CHRO(最高人事責任者)として、「働き方の再デザイン」を牽引する。 一般財団法人旅代表理事、CoCo Consulting 株式会社代表取締役として、非営利団体、営利企業の経営も行なっている。

キーワード:組織マネジメント社会経営
連載名:連載:「旅する」副町長の自治体経営への旅
SNSシェア

ご意見・ご感想をお寄せください

記事に関するご意見や、今後取り上げてほしいテーマなどがございましたら、フォームよりお送りください。