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第4回 起業・事業承継と経営者の覚悟(後編)



中小企業経営のリアルと実践(4)

起業・事業承継と経営者の覚悟(後編)

継承される「知的資産」と「経営者の覚悟」―出でよ!挑戦者!―

事業承継の本質と「知的資産」の承継

画像:生成AIにて作成

前編では、起業と事業承継の違いや背景にある経営理論について考察しました。
この後編では、事業承継の実践プロセスと経営者として必要な「覚悟」について掘り下げます。


まず、事業を次の世代へ引き継ぐ際、何を承継していく必要があるのでしょうか。>

中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、承継すべき要素を「人」、「資産」そして「知的資産」の3つに分類しています。

ここで最も見落とされがちなのが「知的資産」です。
決算書や貸借対照表には載らないもの、例えば企業の競争力の源泉となっている独自の技術、顧客情報、人的ネットワーク、そして企業理念などを「見える化」し、後継者へ確実に引き継ぐことが事業承継の成否を分かちます。

さらに、社外での経験と社内での実務経験を組み合わせた後継者教育、段階的な権限委譲、そして金融機関や取引先を含めたステークホルダーとの丁寧な対話が不可欠です。

事業承継ではこうしたプロセスを一つひとつ積み重ねていく必要があり、円滑に進めるためには長い準備期間が必要です。

中小企業庁の「事業承継ガイドライン」においても、後継者を決めてから承継が完了するまでに3年以上を要する企業が半数を超え、10年以上かかるケースも少なくないことが示されています。

こうした実態を踏まえ、私は最低5年、理想的には10年以上の準備期間が必要だと考えます。

守るべきものと変えるべきもの

事業承継後の持続的成長を左右するのは、「何を守り、何を変えるか」の見極めです。

守るべきもの

  • 創業の精神である「企業理念・価値観」
  • 長年かけて築いた「顧客との信頼関係」
  • 競争力の根幹である「コア技術」
  • 組織に貢献する意欲とスキルをもった「従業員」
  • 「良き組織文化」
これらが新たな発展の基盤となります。 

変えるべきもの

  • 効率を阻害する「時代遅れの慣習」
  • 市場環境の変化に適応した「ビジネスモデル」
  • 業務効率化や競争力強化のための「デジタル化(DX)」
  • 新たな顧客層にアプローチする「マーケティング手法」
そして新しいやり方に適合するための「従業員のマインドとスキル」です。 

経営者には伝統という揺るぎない土台を守りつつ、果敢に変革を推し進めるバランス感覚こそが求められます。

経営者に求められる「5つの重圧」と覚悟

このシリーズを企画したのも、私が中小企業の経営者の覚悟に触れたことがきっかけです。
経営者という立場は単なる役職ではありません。
それは重い責任を引き受ける「特別な生き方」です。

経営者は次にあげる5つの重圧と常に対峙することになります。

  • 経済的責任:借入金の個人保証や自宅の担保提供など失敗した際のリスク
  • 雇用責任:従業員とその家族の生活を支え、給与支払いを最優先する責任
  • 意思決定の孤独:弱音を吐けず、最終判断を一人で下さなければならない立場
  • 時間的制約の消失:24時間365日、頭から仕事が離れない不規則な生活
  • 社会的責任:地域経済や取引先への影響に対する責任
経営者になるということは、これらの重圧を認識したうえで受け入れる「覚悟」を持つことと同義であり、それらを自身の成長や誇りに転換していくことでもあります。

重圧を越えた先にある「創造の喜び」

経営者の世界には、これまで説明した過酷な重圧を遙かに上回る「創造の喜び」が存在します。
新たな商品やサービス、誇りある組織文化、雇用、そして地域貢献を自らの手で生み出せるのは、経営者ならではの喜びです。

脱サラして飲食店を開業したある経営者は、
「組織の歯車ではなく自分の名前で仕事をし、アイデアが形になってお客様の笑顔が直接見えたとき、何物にも代えがたい喜びを感じる。『今日は何を作ろうか』と毎朝、胸が高鳴る」
と語っています。

起業や事業承継は、単なるキャリアの選択肢の一つではありません。
重い責任を引き受けながら、自らの意思で価値を創造し、次世代へ継承していく「生き方の選択」です。

厳しい時代だからこそ、重い責任を引き受ける覚悟を持ち、新たな価値を生み出そうとする挑戦者の出現が、今まさに社会から求められています。

画像:生成AIにて作成

この記事の執筆者

橋本堅次郎(はしもと・けんじろう)

日本文理大学学長

専門分野は経営学、組織変革、流通経営。「組織と人の成長に貢献する」が長年のミッション。小売業・コンサルタントファームを経て役員・管理職として食品業(東証1部)等の上場に携わる。 人材育成事業を起業後、2011年より日本文理大学経営経済学部教授として学生と社会人の指導、地域活性活動を行い、ミッションの実現に尽力している。2021年4月より日本文理大学学長に就任。