【第2回】恋する気持ちは、どこからやってくる?

【第2回】恋する気持ちは、どこからやってくる?
こころと暮らし
2026/07/21
連載:姫野友美の「脳と腸から人生を整える」

私たちの判断や感情、人との関係の築き方は、思っている以上に脳や腸の働きの影響を受けています。
その状態を整えることで、仕事への向き合い方だけでなく、家族や身近な人との関係、日々の行動や意欲のあり方にも変化が生まれていきます。
筆者は、心療内科医・医学博士として、ストレスによる不調や食事と心身の関係について、診療や著書、メディアを通じて発信してきた姫野友美先生。
本連載では、脳と腸のしくみを手がかりに、人生全体のコンディションを整える視点をお届けします。

(文:D-OMNi編集部)

「ドキドキ」「キュンキュン」するワケ

先月号で腸と脳は相互に影響し合っているとお話ししたとおり、ヒトの感情や行動のほとんどは私たちの体に棲んでいる微生物に支配されています。
そして今回のテーマである推し活や恋愛で「ときめく」瞬間も、脳内ホルモンと腸内細菌が私たちの気づいていないところで動いています。

よく“恋は麻薬”とたとえられるように、「なんか好きかも」「ちょっと気になる」と恋が始まるときには、主に次の脳内ホルモンの働きが関係しています。

●エンドルフィン

脳内麻薬とも呼ばれ、鎮静作用や多幸感、深いリラックスをもたらす幸福物質。
好きなものを食べて満足したときや、ランナーズ・ハイ(有酸運動)の際にも分泌されやすい。

●PEA(フェニル エチル アミン)

恋愛感情が芽生えて、いちばん盛り上がっているときに出る恋愛物質。高揚感をもたらし、「恋は盲目」状態にして、その人しか見えなくなる集中力を引き出す。
推し活などにハマりすぎて「沼る」のもPEAの働きによるもの(チョコレートにも含まれており、依存性を高める作用がある)。
 
ところが、あんなに燃え上がったのに、「思っていたのと違う」と急に冷静になることがありませんか? 
それは、あなたの腸内細菌が「この人とは合わない」と判断をしたサインかもしれません。  

なぜならその恋の背中を押してくれる脳内ホルモンの分泌は腸内細菌が深く関わっており、微生物たちが「違和感」や「リスク」を察知して指令を出しているからです。

 

画像:生成AI作成

恋に落ちるとき、相手を決めているのは微生物の働き

いいなと思った相手とはもっと話してみたい、もう少し近づきたいと思いますよね。
ただの知り合いから恋愛対象となり、恋に落ちるまでには「3つの段階」があります。  

今号では、微生物の働きが左右する恋模様の「第1段階」についてお話しします。

この第1段階では「見た目」「匂い」「声」といった視覚・嗅覚・聴覚への刺激がきっかけになります。
そしてここでも、微生物がしっかりと裏で糸を引いているのです。  

それを証明する、興味深い実験をご紹介します。

実験1:ショウジョウバエは同じ食事をする相手を選ぶ

「麦芽糖のエサ」と「でんぷんのエサ」に分けてショウジョウバエを飼育し、25世代後に交配させたところ…

麦芽糖を食べたハエは麦芽糖バエと、でんぷんを食べたハエはでんぷんバエとしか交配しないという結果が出たのです。  
同じ食事をすると腸内環境が似てくるため、ハエは自分と同じ腸内バランスの相手を選ぶことがわかります。  

これはヒトも同じかもしれません。

仲の良いカップルは食べ物の好みまで似てくると言いますが、付き合っていくうちに一緒に食事をする機会が増えて次第に腸内環境が似ていき、親近感や愛着が増していくのです。  

実際にショウジョウバエとヒトは遺伝子の60~70%が共通しています。
私たちも微生物によって「似た腸内環境の相手」を選ぶように誘導されているのかもしれません。

出典:「あなたの体は9割が細菌」アランナ・コリン著(河出書房新社)

実験2:Tシャツに残る匂いで、結婚できる相手を嗅ぎ分ける

女子学生を対象に、男子学生が一晩着て寝たTシャツの匂いを嗅いでもらい、好みの匂いを選んでもらったところ…
 
スイスのベルン大学で行われた有名な実験です。
女子学生は「自分とは異なる遺伝子(HLAの型)」を持つ男子学生のTシャツを、無意識に選んでいたのです。
HLAとはリンパ球の型で、免疫に関わる細胞の目印の遺伝子です。
この型が似ていると、子孫を残すときに免疫力が弱い子供が生まれやすいなどの弊害が起きます。

そのため女子学生は、自分と似ていない強い子孫を残せる相手を、本能的な感覚(嗅覚)で選び取っていたのです。

なぜ「匂い」で遺伝子の違いが分かるのでしょうか?
ここでも微生物が関わってきます。

Tシャツに残った匂いは、皮膚に棲む微生物(マイクロバイオータ)が、人間の汗や皮脂を分解するときに発生するものです。

しかもこの匂いは、HLA型によって一人ひとり異なります。
つまり微生物が作り出した匂いから、女子学生は遺伝子レベルで相性を嗅ぎ分けていたというわけです。

画像:生成AI作成
次号では、恋に落ちる「第2段階」からお話をはじめたいと思います。
「この人、なんかいいかも」と思ったら、それは脳だけでなく腸内細菌からの推薦状かもしれません。
人との相性を見極めることは、恋愛だけでなく、仕事のチームづくりや信頼関係にも関わってきます。せっかくの良い出会いも、脳と腸が疲れていると見逃してしまうことも。
日頃からコンディションを整え、自分の直感が働きやすい状態をつくっておきましょう。

この記事の執筆者

姫野 友美(ひめの ともみ)

ひめのともみクリニック院長

医療法人社団 友徳発心会 ひめのともみクリニック 院長、元日本薬科大学薬学科 教授、心療内科医、医学博士。 東京医科歯科大学(現東京科学大学)医学部卒業後、九州大学医学部心療内科勤務を経て現クリニック開設。
テレビ東京「主治医が見つかる診療所」などラジオ、新聞、雑誌でもストレスによる病気・症候群などのコメンテーターとして活躍。
『心療内科に行く前に食事を変えなさい』(青春出版社)
男女のすれ違いを腸で解決する驚きの最新医学『急に不機嫌になる女 無関心になる男』(青春出版社)
『認知症になりたくなければラーメンをやめなさい』(講談社)など著書多数。
最新刊は『ごはんを変えると人生が変わる』(大和書房)

ひめのともみクリニック

雑誌・書籍の医療監修、講演依頼等

最新刊のお求めはコチラから

キーワード:コミュニケーション健康ライフメンタル悩み
連載名:連載:姫野友美の「脳と腸から人生を整える」
SNSシェア

ご意見・ご感想をお寄せください

記事に関するご意見や、今後取り上げてほしいテーマなどがございましたら、フォームよりお送りください。