古くから語り継がれてきた言葉や、かつて社会をにぎわせた出来事には、現代の仕事や人間関係を考えるヒントがあります。 本連載では、「温故知新」をテーマに、時代を超えて変わらない人や組織の本質を見つめ直します。 執筆者は、経営教育・能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に携わってきた本田有明氏。 小説・児童書の分野でも著作を重ねてきた筆者が、長年の経験と幅広い視点から、世代論や流行の言葉に振り回されず、人や組織を見つめ直すためのヒントをお届けします。
(文:D-OMNi編集部)
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今回の文言は高校の社会科の教科書にも載っているので、たいていの方はご存じのことと思う。 古代ギリシャ時代の哲学者ソクラテスが大切にした格言だが、彼自身が最初に唱えたわけではない。 当時のデルフォイにあるアポロンの神殿に刻まれていた言葉だ。 ソクラテスは自身を振り返って「自分は何も知らない無知な人間だ」と謙虚に考えた。 その自覚=無知の知によって、彼はギリシャで最も知恵ある者だとの神託を受けたという。 このエピソードは、ソクラテスの弟子プラトンが記した『ソクラテスの弁明』に詳しく記されている。 「なんじ自らを知れ」などと言うと、「自分のことは自分が一番よく知ってるよ」と答える人もいるだろう。 たとえば、自分が真実を述べているかウソを述べているかなど、自分の心の動きやたくらみについては、本人がよくわかっているといえそうだ。 では、自分が人からどう見られているかについては、どうだろうか。 この部分が、職場でのハラスメントの認定などにおいて判断が分かれる部分である。 とくにパワハラは、行ったと非難される人にその自覚がない場合が多い。 「相手のためを思って」や「教育的配慮から」など、ハラスメントの自覚がないケースが過半を占める。なぜだろうか。
いわゆる頭がいい人、仕事ができる人というものは、自覚の有無にかかわらず自分を基準にして人と接していることが多い。 部下や後輩に対しても、できる部分よりできない部分に目がいきやすく、イライラしがちになる。 厳しい先輩、うるさい上司の多くは、悪気はなくパワハラを行っているわけだ。 そういう人は、どんな自戒をすればよいか。 自分がまわりにどう見られているか、虚心坦懐に聞いてみることだ。 たとえば同期の友人や親しい先輩などと話をする折に、「私はパワハラ気質があるのではと気になることがあるけど、どうでしょうか」と気軽に水を向けてみる。 すると、意外な答えが返ってくることが、よくある。 私自身、かつて後輩たちに尋ねてびっくりした体験がある。 「本田さんは、『悪い情報こそ早く教えてくれ。決して怒ったりしないから』と言ってますが、かなり険しい顔になってます。ちょっとコワい」 え? いつも温顔で接している優しい人と自負していたのに。 自分で思っている自分と人に見られている自分とでは、だいぶ異なっているものだ。 そのことをよく自覚して、たまにはその事実と謙虚に向き合おうとする心のゆとりをもちたいと思う。 「人は自分のこととなると、よく間違える」(デカルト『方法序説』)。 なるほど。耳に痛い指摘だ。 心に銘記しておきます、デカルト先生。
この記事の執筆者
本田 有明(ほんだ ありあけ)
本田コンサルタント事務所 代表
1952年、兵庫県神戸市生まれ。慶應義塾大学哲学科卒業後、社団法人日本能率協会に勤務する。経営事業本部、情報開発本部などに所属し、部長職を務める。1996年に人材育成コンサルタントとして独立。主に経営教育、能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事している。懇切丁寧な指導と明快な語り口調には定評がある。また作家として、小説・児童書の分野でも著作が多い。
本田有明のホームページ
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