三浦市の挑戦(後編)――二つの「海業(うみぎょう)」がひらく、まちの未来

三浦市の挑戦(後編)――二つの「海業(うみぎょう)」がひらく、まちの未来
社会と未来
2026/08/28
連載:地域が動き出すとき― 自治体の実践から見る課題と可能性―

人口減少をはじめ、地域が抱える課題は複雑さを増しています。こうした難題に人や組織はどのように向き合い、地域を変える力へとつなげているのでしょうか。
 
本連載では、自治体の挑戦を取材し、施策が生まれた背景や議論、試行錯誤の過程をたどります。
成果だけでは分からない「地域が動き出す瞬間(とき)」を明らかにし、自らの地域や組織で次の一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。

(文:D-OMNi編集部)

なぜ人口減少のまちが、リゾートを目指すのか

Photo:大型クルーザー係留用に二町谷地区に整備された浮き桟橋(筆者撮影)
「歩くと揺れますよね。これが、大型クルーザー係留のためにつくった浮き桟橋です」

その浮き桟橋を先導しながら、三浦市の副市長、徳江卓氏が海を指さす。

「相模湾越しに富士山まで見え、夕暮れにはサンセットまで楽しめる。自画自賛ではありますが、リゾートとして一流の条件が揃っていると思いますね」

神奈川県三浦市の二町谷(ふたまちや)地区。海岸に隣接する13.3ha(東京ドーム2.8個分相当)という広大な埋立地は、現在は更地状態で建設物は何もない。だが、2033年には高級宿泊施設や大型クルーザーも停泊できるマリーナなど、ハイグレードなリゾート施設ができる予定だ。市は「海業(うみぎょう)プロジェクト」と呼んでいる。

自治体が主導して富裕層向けリゾート施設を目指す例は珍しく、行政関係者からは全国的にも注目されている。

Photo:海業プロジェクトの開発予定地となっている二町谷地区の埋立地(出典:安田造船所、PRTimes
一方で、三浦市も多くの自治体と同じ悩みを抱えてきた。人口減少と少子高齢化だ。

三浦市の人口のピークは1993年11月の5万4350人。以後、なだらかに減っていき、2026年6月現在、3万8511人とピークから30%近く減少している。2014年にはいわゆる増田レポート※1による「消滅可能性都市」の一つにも挙げられていた。高齢化率は42.1%(2025年1月)で全国平均の29.3%を大きく上回る。

こうした情勢の中、なぜ三浦市は富裕層向けリゾート施設という方向性を目指すに至ったのか。

プロジェクトのスタート時から関わる徳江氏は、ベースには市が抱える課題があると語った。

「これまで行財政改革担当や市長室など部署は変わっていても、基本的に私にとってこのプロジェクトは官民連携という意識があります。課題はやはり人口減少です。それを変えるためには産業の強化、雇用の創出が必要。それがこの海業プロジェクトにあると言えます」

そういって過去の事業で振り返ったのが「三浦市トライアルステイ」という取り組みだ。


※1増田レポート:増田寛也氏(元総務相)と日本創成会議・人口減少問題検討分科会が2014年に公表した提言の通称。『中央公論』2014年6月号の緊急特集「消滅する市町村523―壊死する地方都市」には、「消滅可能性都市896 全リスト」が掲載された。

トライアルステイが浮き彫りにした三浦市の課題

2015年度から2021年度にわたって、市はPPP(Public Private Partnership、官民連携)の一環としてトライアルステイ(お試し居住)という事業を行った。若い層に自然豊かな三浦を体験してもらい、移住・定住に結びつけるという狙いだ。だが、始めてみると課題がいくつも出てきたという。

Photo:海業プロジェクトについて説明する三浦市副市長の徳江卓氏(筆者撮影)
「当初の構想では、クリエイターのような人に来てほしかった。けれど、そういう人は逆に選択眼が厳しく、下水や浄化槽などの居住環境はもちろん、ただ空き家があるでは選ばないことがわかった。また、三浦にはいわゆるマンションのような集合住宅も少ない。一方で、仕事を求めている層にとって、三浦は就職先も多くなく、交通事情も不便だと。そうした課題が見えてきた」

一連の課題でもっとも重要だったのは雇用、すなわち仕事が少ないことだった。それは農業や水産業など第一次産業の比率が10%以上と比較的多い三浦にとっては難題だ。もとより工場や大企業の誘致は難しい。水産関連企業が埋立地事業に興味を示さなかったのと同様、三浦は交通事情が不便だからだ。では、商業施設はどうか。その問いも同じ答えに行き着く。

結局、さまざまな試行錯誤の結果、もっともよい方向として結論されたのが富裕層向けリゾートの開発だったと徳江氏は言う。

「観光といっても、海のリゾートというだけでは十分ではない。そういう場所は他にもいくらでもあります。神奈川には鎌倉、箱根という人気観光地もあるし、足も運びやすい。でも、三浦はまず交通が不便。だとすれば、そういう場所でも来たい人を呼び込めるようにしなければいけない。富裕層が憧れるような場所であれば、わざわざ足を運びたくなるのではないか。そういう形で収斂していったのがプロジェクトの土台でもあったのです」

Photo:三浦市の観光スポット「小網代の森」に整備された散策路(筆者撮影)
それは同時に、雇用の創出にも関わっている。現状で、宿泊施設や飲食店など施設の詳細は明かされていないが、ホテルやコンドミニアムのような宿泊施設は、ぼんやりとした推計でも100室以上だろうと見込まれている。

「それくらいの規模になれば、雇用の創出は小さくないでしょう。最近近隣にできた高級ホテルでも百人以上の従業員を数えると聞いています。しかも、二町谷では、宿泊だけではなく、飲食やさまざまなサービスの供用も予定されている。その規模で行けば、数倍の雇用が発生すると思います。また、それに事業が動くのに伴って、さまざまな経済も動くことになる。そこに大きなチャンスがあると見ているのです」

周辺産業への広がりもさまざま想定される。クリーニング、物流といった基本的なものから、従業員が暮らす集合住宅、あるいは、そうした人たちが使うためのスーパーマーケットなどの商業施設や飲食店、あるいは医療機関……。拠点そのものは富裕層向けで一般の人には敷居が高いかもしれないが、そうした事業が継続的に展開していくためには雇用される人が必要であり、そうした人たちのための暮らしも必要だ。

Photo:三浦市内に広がる農地。農業は同市の基幹産業の一つ(筆者撮影)
「やはり雇用に関しては事業者に対して、行政からは要望していきたいところです。市内在住者の優先雇用など、意見を申し上げたい部分は出てくるでしょう。そこは協議すると事業者と合意も得ています」

そうした経済と雇用の拡大こそ、行政としてもっとも望んでいる部分だと徳江氏は言う。

「まずは経済の活性化。投資がなされ、経済がまわり出す。農水産物で地元の仕入れ先が増え、周辺の観光業も動く。次は雇用。働く場所ができれば、市外から入ってくる人も含め、人口も増える可能性がある。広がりが出てくれば、公共交通のバスや電車だって増便するかもしれない。消費税、固定資産税、所得税などももちろん行政にとって大事な要素ですが、なによりも経済と働く場ができるのが重要だと思います」

そうした周辺への広がりは、現在、当初よりさらに期待できるものになっている。二町谷に出資している興和(愛知県)が周辺地域の再開発にも乗り出してきたためだ。

三崎港で動き始めた、もう一つの「海業」

三崎港の横に年間110万人の観光客が訪れる商業施設がある。マグロなどの海産物や野菜などを販売している『うらりマルシェ』だ。2001年につくられ、近年は改修したいと悩んでいたと徳江氏は言う。

Photo:三崎港の産直施設「うらりマルシェ」。新海業プロジェクトでは周辺を含めた再開発が計画されている(筆者撮影)
「そんなとき、いま富裕層向け事業に取り組んでくれている興和が、この『うらり』の改修とその周辺の水産施設も含めた再開発の事業提案をしてくれたのです。これには驚きました」

そうして徳江氏が紹介したのが「新海業プロジェクト」だ。こちらは2025年に基本協定が締結され、事業計画も提出されている。

計画案によると、うらりマルシェをよりおしゃれに改修するとともに、周辺施設も現代的にアップデートするという。あくまでも現時点での事業計画等で今後変更の可能性もあるが、うらり入口には朝市の場、湾沿いにはアクティビティ用のクルージングやフィッシングボート乗り場、埠頭の先にはBBQ場などが描かれている。また、うらりから少し離れた商店街についても、空き家を宿泊施設や喫茶店などにリノベーションしていく案が示されている。

簡単に言えば、こちらは一般客向けの観光スポットだ。徳江氏の予測でも、二町谷に来る客層と、このうらり周辺を訪れる客層は多少なりとも予算規模が異なるだろうと見ている。

それでも、重要なことは、富裕層の場だけではなく、一般層の人たちも来られる場が併せてできることであり、経済や雇用という観点では相乗効果も期待できることだ。
Photo:新海業プロジェクトによる、うらりマルシェ周辺の再開発イメージ(提供:三浦市)
「二町谷のほうは完成が2033年の予定。うらりマルシェのほうは2029年には完成予定なので、うらりのほうが早い。ですので、先に三崎地区の賑わいが増える可能性がある。行政としては、周辺の三崎地区の商店街の活性化も同時に望みたい」

富裕層向けのリゾート施設の二町谷地区、一般層向けの飲食やアクティビティの三崎地区。三浦市にとっては、これからの経済や雇用、そして街の位置づけが関わる二大プロジェクトがこれから進むことになる。

現時点では、経済効果など数字については出せないという。第一に事業者側の事項であり、行政側が不確かな情報で先走ると混乱する可能性があるためだ。

ただ、これまで埋立地時代から関わってきた徳江氏は、三浦の地力を信じているという。

「富裕層向け事業を手掛けてきた興和がこれだけ乗り出し、巨額の投資をしてくれているのは、それだけ三浦のもつ価値に気づいたからだと思うのです。どれだけ多くの魅力を引き出せるか。まさに官民連携の力にかかっていると思います」

この記事の執筆者

森 健(もり けん)

ジャーナリスト
専修大学非常勤講師

1968年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。2012年、『「つなみ」の子どもたち』(文藝春秋)と作文集『つなみ』(同)の企画で第43 回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2015年、『小倉昌男 祈りと経営』(小学館)で第22回小学館ノンフィクション大賞受賞、2017年、同書で第1回大宅壮―メモリアル日本ノンフィクション大賞、ビジネス書大賞2017 年・審査員特別賞受賞。2023年、「安倍元首相暗殺と統一教会」で第84回文藝春秋読者賞受賞。
著書:『勤めないという生き方』(KADOKAWA)、『グーグルアマゾン化する社会』(光文社)、『就活って何だ』(文藝春秋)、ほか

キーワード:組織社会未来悩み経営
連載名:連載:地域が動き出すとき― 自治体の実践から見る課題と可能性―
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