経営者の見えにくいストレスとパフォーマンスを向上させるセルフケア

経営者の見えにくいストレスとパフォーマンスを向上させるセルフケア
こころと暮らし
2026/09/28
特集
会社のために、自分のことは後回しになっていませんか?

「最近、疲れが取れにくい」「考えがまとまらない」「つい感情的になってしまう」
それは、知らないうちにたまったストレスのサインかもしれません。

日々、判断と責任を担う経営者にとって、心身のコンディションを整えることも大切な仕事です。

今回は、企業の保健師・カウンセラーとして働く人の心と体を長年支えてこられた桃山学院大学教授の栗岡住子先生が、経営者のストレスとの向き合い方と、今日から取り入れられるセルフケアを解説します。
短い動画とともに、ご自身の健康を見直すヒントをお届けします。

(文:D-OMNi編集部)

1.経営者のストレスの特徴

経営者という立場には、組織や社員を支える責任や、業績など将来への不安が伴う反面、やりがいや、自ら方針を決められるなど、経営者だからこそ得られる充実感もあります。

フランスの中小企業経営者の支援団体「アマロック」代表でモンペリエ大学教授のTorrès(トレス)氏は、『経営者の「健康」状態を示す天秤』として図1のように示しています。

天秤の右側の「楽観的要因」が優位となり、やりがいを感じてイキイキと働いている経営者の方もいれば、天秤の左側の「悲観的要因」が優位となり、抑うつや孤独を感じる方もいます。

図1.中小企業経営者の健康のバランス

  • ●楽観的要因:中小企業経営者ならではの喜び・やりがい・強さなど
  • ●悲観的要因:中小企業経営者ならではの苦悩・将来への不安など

しかし、この天秤の左右のバランスは、「物事のとらえ方」や日常の行動により、自分自身でコントロールすることができます。
例えば、同じ失敗をしても、すっかり落ち込んで何もする気がしなくなってしまう人もいれば、「失敗」を乗り越えようと工夫をする人もいます。

前述した「物事のとらえ方」には自分で意識していないクセがあり、このクセによって、人の気持ちは大きく変動します。

自分自身の無意識のクセを理解して、それを修正することで、失敗しても気持ちをコントロールして前向きな行動をとることができます。
この無意識のクセを修正することを、心理学では「マインドセット」といいます。

人のカラダとココロは密接につながっており、体調が悪いと気分がすぐれませんが、体調が良いときは気分が良く、集中力や思考力、判断力が高まり仕事がはかどります。
そのうえ、ストレスへの抵抗力やストレスから回復する力(レジリエンス)が高まります。

このように食事や睡眠、運動などの日常生活を整えることは、心の健康を向上させて組織を前に進めるために重要で、特に睡眠の量と質を確保することは、長期的にはココロの健康を維持するために有効であると報告されています。

経営環境が日々変化する中で、パフォーマンスを向上させて組織を発展させるために、このようなメンタルヘルスケアの方法を身につけておくことは重要だと考えます。

そこで本コラムでは、
  • メンタルヘルスの基礎知識(心の健康を高めたり、精神的に不安定になったときの対処など)
  • マインドセット(物事のとらえ方を意識・修正するスキル)
  • セルフケア(ココロとカラダを整える体調管理のポイント)
この3つの方法を紹介します。
動画(各3~4分)と合わせて読んで頂くと理解しやすく、より日常生活でご活用いただけます。

 

2.ストレスの基礎知識―適度なストレスは有益である

いま、多くの中小企業経営者が人材不足や資金繰り、そして個人的なストレスで悩んでいます。

ストレスというと、悪いイメージを持つ方が多いですが、私たちにとってストレスは「成長するためのエネルギー源」でもあります。
難しい仕事や厄介な交渉事など、努力して対応できる課題などがあることで、私たちは工夫して乗り越え、達成感を得ることができますし、失敗してもそこから学ぶことができ、人間的にも成長することができます。

そのためには、ストレスへの抵抗力を高めておくスキルが必要です。
そのスキルを身につけるためには、何か特別なことをするのではなく、「ストレスの基礎知識」を理解して、ふだんから自分に合ったストレスコントロールを習慣化していくとよいでしょう。

ストレスの基礎知識として、以下の3つをご紹介します。

  • 1)ストレス科学のメカニズム:適度なストレスは有益である
  • 2)ストレスのサイン:要注意レベルのストレス反応
  • 3)適度なストレスを維持するための方法の紹介:マインドセット、セルフケア
1)ストレス科学のメカニズム
適度なストレスは経営者の能力を高め、会社の生産性を高めることが分かっています。

例えば、自分にとって「少し難しい課題」に対処することは、その時は苦労しても、その経験を通して新しいスキルが身に付き、幅広い人脈を得ることもあります。

しかし、「自分の能力を大幅に超える難しい課題」が「長期間」にわたって続くと、精神的なエネルギーが枯渇しパフォーマンスが下がり、気力がなくなるなどの症状(高ストレスのサイン)が出現します。逆にストレスが低すぎてもパフォーマンスは低下します(図2)。

ストレスが高い状態が続きそうならば、助けを求めるなどの工夫でストレスレベルを下げ、ストレスが低い状態が続きそうならば、新しいことに取り組むなどでストレスレベルを上げる方法などがあります。

それだけでなく、後述するマインドセットやセルフケアのスキルを身につけることでも、自ら適度なストレスをコントロールして、高いパフォーマンスや健康を維持することができます。

図2.ストレスレベルと仕事のパフォーマンスの関係(ヤーキーズ・ドットソンの法則)
2)高ストレスによる不調のサイン
中小企業経営者は、体調が悪くても我慢しがちなため、高ストレスのサインを見逃しやすい傾向があります。

高ストレスのサインは多様で、心理面では、イライラや無気力、感情的になること、身体面では、倦怠感や頭痛、不眠や食欲不振などがあります。
行動面では、集中力や判断力が低下して仕事が滞る、お酒やたばこの量が増える、朝起きづらくなるといったサインがあります。

高ストレスに関連する症状は風邪と同じで、気づくのが遅くなると症状をこじらせて、うつ病等により仕事を休まざるを得なくなることもあります。
しかし、高ストレスのサインに早めに気づいて対処することで、パフォーマンス低下や気分の落ち込みを予防することができますし、もし治療が必要になっても短期で回復します。

図3.高ストレスのサイン
3)高ストレスへの対処
高ストレスのサインに気づいた時の対処方法は、①休養する、②相談することがポイントです。

休養については、仕事を早めに終えて、自分の時間を過ごしてぐっすり眠る日をつくることです。
2週間以上眠れない日が続く場合は、市販の睡眠導入剤等を用いて眠ることで、体調や気分が改善することがありますが、可能であれば専門医の受診をお勧めします。

相談については、信頼できる友人や家族、秘密を守ってくれるカウンセラーや専門医に相談することです。
話すことで情報が整理され、広い視野から問題を検討できるようになります。その結果、適切な判断がしやすくなり、問題解決につながることもあります。
また、必要に応じて専門医の治療を受けることで、困難な状況であっても、精神的に安定して仕事を継続できる場合もあります。

<高ストレスのサインに気づいたら、早めの対処が効果的!>
  • ①休養する: 一晩ぐっすり眠る・ゆっくり過ごす時間をとる
  • ②相談する: 信頼できる人に話を聴いてもらう、カウンセリングや治療を受ける

🎬 動画で学ぶ(1)|高ストレスのサインと対処法

高ストレスのサインに早めに気づき、適切に対処するためのポイントを動画で確認してみましょう(約3.5分)。

3.マインドセット

様々なストレスにより一喜一憂せず、適度なストレス状態を維持するためには、マインドセットが役立ちます。マインドセットは、欧米では経営者が持つべき重要なスキルとなっています。
1)ストレスとマインドセット
同じようなストレスを受けても、乗り越えようと前向きな行動をとる人と、落ち込んで問題から逃げてしまう人があります。
乗り越えようとする人は、ちょっとした思考のスイッチ(マインドセット)が働きます。

マインドセットは、スタンフォード大学のDweck(ドゥエック)教授らの研究によって提唱された概念で、人の行動や判断の基礎となる「物事のとらえ方(信念、価値観)」です。

マインドセットには、努力すれば改善すると前向きに捉える「成長型マインドセット」と、努力しても無理だと挑戦を回避する「固定的なマインドセット」があります。
ストレス対処で大切なのは、気合や我慢ではなく「物事のとらえ方」を切り替えるという考え方です。

例えば、期待していた若手社員の離職や、現場でトラブルが発生したときに、「なぜ自分ばかり苦労するのか」と固定的なマインドセットで現実を捉えると、焦りや怒りで判断が鈍ります。

しかし「今の組織構造や制度をバージョンアップさせるためのシグナルだ」と成長型マインドセットで捉え直すと、体制強化や仕組みに着手するヒントになり、次の一手が建設的な行動に変わります。

成長型のマインドセットを繰り返すことで、考え方のクセ、つまり脳の神経回路が変化し、前向きな思考パターンや行動が「強化」されます。すると、幸せホルモンといわれるセロトニンが分泌され、精神安定やストレスが軽減されます。

経営者のこのような姿勢は、職場風土にも「挑戦を支える前向きな空気」が広がるきっかけになります。

図4.マインドセットのイメージ
2)マインドセットを身につける
「物事のとらえ方」は一朝一夕で変えることはできませんので、日々のトレーニングが必要です。トレーニングといっても大げさなものではありません。日々の目標や考え方を意識して変えていくものです。

具体的なトレーニング方法は3つです。

1つ目は、目標設定です。
自身の考え方のクセを把握して自分が伸ばしたい、または、変えたいクセを決めて、達成可能な具体的な目標を設定します。
例えば、悩んだ時に「一人で抱え込んでしまう」クセがあれば、次に悩んだときには「信頼できる友人に相談してみる」という目標設定をすることです。
目標を設定する際には、その特性をうまく使っている人の行動をマネしたり、その人に相談してフィードバックをもらうと良いでしょう。

2つ目は、ポジティブな言葉がけです。
「できない」を「きっとできる」など、前向きな言葉に置き換えることは、思考をポジティブな方向へ導きます。
また、「頑張れば大丈夫!」などと、自分を元気づける独り言(セルフトーク)も心理学的には効果があります。

3つ目は、継続と内省です。
小さな成功体験を積み重ね、PDCAサイクルを回しながら、定期的に内省し、「思ったよりうまくできた」とか「もっとこうしたら、うまくできそうだ」と、トライ&エラーを繰り返しながら自己効力感を高めます。
もし、ネガティブな思考に囚われた場合は、一度考えるのをやめ、気分転換をすることも重要です。

マインドセットにより思考や行動を変化させるためには、継続的なトレーニング(日々の心がけ)が必要です。
信頼できる友人やカウンセラーに定期的に状況を報告したり、経営者仲間で定期的に集まり、フィードバックをもらうことが、その後の成長につながります。

<マインドセットのトレーニング>
  • ①目標設定: 達成可能な小さな目標をたてる
  • ②ポジティブな声掛け:「きっとできる」とポジティブなセルフトーク(独り言)
  • ③継続と内省: 小さな経験を積み重ねて自己効力感を高める

🎬 動画で学ぶ(2)|マインドセット

ストレスのとらえ方を切り替え、前向きな行動につなげる考え方を動画で解説します(約3.5分)。

4.セルフケア

ココロの状態は、循環器や消化器、ホルモンや自律神経など、全身に影響を及ぼします。
逆に、カラダの健康状態を維持することによりココロの状態も安定し、ストレスに強くなるので、体調管理=ストレス管理です。

セルフケアのポイントは、
  • 1)睡眠と休養
  • 2)運動
  • 3)マインドフルネス
  • 4)ソーシャル・サポート
この4つです。
1)睡眠・休養
良質な睡眠は、記憶の整理や疲労回復、ストレス耐性や免疫力を向上させます。逆に睡眠不足は認知機能を低下させ、作業効率の低下やミスの増加につながります。
そのため、7~8時間の睡眠をとりましょう。まれに短時間睡眠のほうが良いという方がありますが、最近の研究では、少なくとも6時間以上の睡眠時間を確保することが勧められています。

「忙しくて、睡眠時間が取れない!」という方は、就床時間を30分だけでも早めたり、昼休みに15~20分程度の昼寝をとりましょう。特に昼寝は午後のパフォーマンスを高めます。
多忙な時こそ、積極的に睡眠をとりパフォーマンスの低下を防ぎましょう。
さらに、飲酒は睡眠の質を低下させるため、眠れない場合は飲酒よりも就床前のストレッチなどの方が効果的です。

最近の研究では、休養をうまくとること(リカバリー経験)が、パフォーマンス向上につながることが注目されています。
仕事によって消費された心身の疲労を、休養によって元の水準に回復させることが、次の良い仕事につながります。

リカバリー経験は、仕事から物理的にも精神的にも離れている状態(家族や友人と過ごす、スポーツをするなど)が効果的です。
特に中小企業経営は、24時間365日、切れ目なく緊張が続く方もいると思いますが、仕事への意欲やパフォーマンスを向上させるため、1日30分でもきちんと休養を取り、リラックスした時間を過ごすことは大変重要です。

<睡眠・休養の効果とポイント>
  • ①睡眠は記憶の整理と定着、疲労回復に効果
  • ②睡眠はストレス耐性の向上と免疫力のアップ
  • ③睡眠は7~8時間確保
  • ④多忙な時こそ睡眠や休養の時間を確保する
  • ⑤飲酒量を控えて、良質な睡眠を
2)運動
ウォーキングやジョギングのような軽い有酸素運動は、セロトニンなどの幸福物質を脳内から分泌させるため、心の安定とストレス緩和の効果があります。

特に午後3時以降の軽い運動やストレッチは睡眠の質を高めるので、仕事帰りの30分のウォーキングや入浴後のストレッチがお勧めです。
自動車で移動することが多い方は、仕事を始める前や昼休み、帰宅後などに20分程度カラダを動かすことをお勧めします。

<効果的な運動>
  • ①ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動
  • ②通勤時のウォーキングなど1日30分以上の有酸素運動
  • ③午後3時以降の軽い運動は良質な睡眠を促す
3)マインドフルネス
マインドフルネスとは、過去や未来にとらわれず「今、この瞬間」の思考や感情を観察すること(瞑想)により心を整えます。
マインドフルネスを継続することにより、脳の海馬という記憶や感情をつかさどる部分の密度が高まり、記憶や学習・感情の調節能力が高まることがわかっています。

業務の合間に1分でも自分のカラダに注意を向けて、深い腹式呼吸を繰り返すマインドフルネス瞑想により、頭がスッキリして、悩んでいる問題を別の側面から客観視する冷静な判断ができるようになるかもしれません。

動画で1分間のマインドフルネス瞑想を体験できますので、お試しください。

<マインドフルネスの効果>
  • ①記憶や学習能力の向上
  • ②感情調整能力の向上
  • ③ストレス緩和

図5.マインドフルネス瞑想 
4)相談相手を持つ
中小企業経営者には、悩みがあっても相談せずに、一人で何とかしようとする傾向があります。
一人で考えると、どうしても自分の固定観念にとらわれた視野の狭い判断になりがちです。

図6.人は語ることで思考を整理し、新しい課題を解決したり挑戦できる
しかし、他の人に相談することで、多面的な視点で考えることができます。また会話の中で自然な形で、モノの見方が変わるマインドセットができます。

🎬 動画で実践(3)|セルフケア

日常生活に取り入れられるセルフケアを、動画を見ながら実践してみましょう(約4.5分)。


厳しい経営環境が続くなかでも、心身ともに健やかでパフォーマンスを維持していくためには、ちょっとしたメンタルヘルスの知識やスキルが役立ちます。

日常の生活に動画を活用して、健康でよい仕事を続けて頂けることを心より祈っています。

この記事の執筆者

栗岡 住子(くりおか すみこ)

桃山学院大学人間教育学部 健康・スポーツ教育課程 教授
博士(医学)、経営学修士(MBA)

日本電信電話㈱、中学校養護教諭を経て、日本製鉄㈱(旧住友金属工業㈱)にて保健師・カウンセラーとして20年間勤務。在職中に神戸大学大学院経営学研究科にて経営学修士取得。2010年に退職後は研究に専念し、産業医科大学大学院医学研究科にて博士(医学)を取得。2014年から大阪公立大学(旧大阪市立大学)大学院経営学研究科特任教授として、医療福祉の経営戦略等を指導、2017年より現職。
主な著書
『メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト』(中央経済社)
『職場のメンタルヘルスハンドブック』(診断と治療社)
『わかりやすい公衆衛生学入門 2021年』(株式会社ERP)
『産業・精神看護のための働く人のメンタルヘルス不調の予防と早期支援』(金子書房)
など多数。

●趣味は料理とスポーツ。出身は島根県安来市。

キーワード:組織上司学び働き方健康メンタル
悩み経営
連載名:特集
SNSシェア

ご意見・ご感想をお寄せください

記事に関するご意見や、今後取り上げてほしいテーマなどがございましたら、フォームよりお送りください。