(文:D-OMNi編集部)
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「管理職にはなりたくない」―そんな声を耳にすることが増えました。 責任は重くなる。部下の育成もしなければならない。それでも自分自身の仕事は減らない。 「管理職は罰ゲーム」という言葉まで聞かれるようになった今、管理職になることに前向きになれない人がいても、不思議ではありません。 実際、『日本のミドルマネジャー白書2025』を見ると、管理職への昇進を「希望した」と回答した人は21.0%にとどまり、47.1%は「特に希望するのではなく流れの中でなった」と回答しています。 ところが、管理職としての仕事に充実感が「十分ある」「それなりにある」と回答した人は合わせて70.5%。 約7割の管理職が仕事に充実感を持っています。 もちろん、これだけで「管理職になれば楽しい」と結論づけることはできません。 それでも、「管理職=罰ゲーム」と決めつけてしまうのは、少し早いのかもしれません。 では、もし明日、上司に「来年度から管理職をお願いしたい」と言われたら、何を準備したらよいのでしょうか。 マネジメントの知識、部下への指導方法、リーダーシップ。 これらももちろん大切です。 しかし、その前に準備しておきたいことがあります。 それは、「自分自身の仕事の仕方を変える準備」です。 プレイヤーとして成果を上げてきた人ほど、自分なりの仕事の進め方や考え方を持っています。 その経験は大きな財産ですが、管理職になったとき、その「成功体験」が思わぬ落とし穴になることもあります。
プレイヤーとして経験を積むと、「こうすればうまくいく」という自分なりの方法が身についていきます。 一方で注意したいのが、「自分がうまくいった方法は、他の人にとってもうまくいく」と考えてしまうことです。 行動経済学には、「一貫性のバイアス」と呼ばれるものがあります。 人は、これまでの自分の考えや行動を変えることに抵抗を感じやすく、「今までこのやり方でうまくいったのだから、これからもうまくいく」と考える傾向があります。 例えば、自分が若手の頃に「仕事は先輩の姿を見ながら覚えた」という経験があれば、「自分もそうやって覚えたのだから、部下もできるはずだ」と考えるかもしれません。 また、自分なら30分で作れる資料を、部下が1時間かけても完成していない。「どうしてこんなに時間がかかるのだろう」と思うこともあるかと思います。 しかし、自分が30分でできるようになるまでには、何年もの経験があったはずです。 ここには、「アンカリング」も関係します。 自分の経験や能力が判断の基準、つまり「アンカー」となり、「自分ならこれくらいできる」「自分の頃はこうだった」という基準で相手を見てしまうのです。 自分にとっての「普通」が、部下にとっての「普通」とは限りません。 大切なのは、自分の成功体験を「正解」として相手に当てはめるのではなく、「一つの方法」として捉え直すことです。 「普通はこうする」「これくらいできて当然」と思ったとき、「これは本当に誰にとっても当たり前なのだろうか」と考えてみる。 自分の「当たり前」を疑うことも、管理職になるための大切な準備の一つです。
仕事を任せることに加えて、もう一つ意識しておきたいことがあります。 それは、「考えること」も相手に任せることです。 『日本のミドルマネジャー白書2025』では、OJTを行う際の悩みとして、32.8%が「指示したことはやるが、自発性が見られない」と回答しています。 「言われたことはやるけれど、自分から考えて動いてくれない」。 部下や後輩に対して、このように感じたことがある人もいるのではないでしょうか。 しかし、ここで少し考えてみたいことがあります。 部下から「これはどうすればいいですか?」と聞かれたとき、すぐに答えを教えていないでしょうか。 経験を積んだ人ほど、答えが見えます。 「こうすればいいよ」「まず○○をやって」「私ならこうする」と教えた方が早く、相手も迷わず行動できます。 ところが、いつも答えを教えていると、相手は「分からなければ聞けばいい」と考えるようになり、自分で考える機会が少なくなってしまいます。 そこで、すぐに答えを教えるのではなく、「あなたはどうするのがいいと思う?」「どんな方法が考えられる?」「まず何から始められそう?」と、一度問いかけてみます。 これは、コーチングの基本的な考え方でもあります。 答えを与えるのではなく、質問を通じて相手自身に考えてもらうのです。 もちろん、何でも質問で返せばよいわけではありません。 知識や経験がない人に「どう思う?」と聞いても、答えられないことがあります。 緊急性の高い仕事や、正確な手順が求められる仕事では、具体的に教えることも必要です。 大切なのは、「教える」と「考えてもらう」を使い分けることです。 管理職になる前から、後輩や同僚とのやり取りの中で「すぐに答えを教えず、まず一つ質問してみる」。 そんな小さな習慣が、自分で考えて動ける人を育てるための準備につながります。
ここまで見てきたことは、管理職になってからでなければできないことではありません。
この記事の執筆者
上前 拓也(かみまえ たくや)
合同会社友歩 代表 行動経済アナリスト
企業・自治体等を対象に、コーチング、マネジメント、行動経済学などをテーマとした研修・講演を行う。 これまでに2,000回以上の研修・講演に登壇。 主な著書 『「初めまして」が楽しくなる!初対面の会話術』(セルバ出版) 『集中力を高める本』(エイチエス) など。
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