管理職が見えてきたら、何を準備する? ―プレイヤーのうちに知っておきたいこと、始めておきたいこと―【前編】

管理職が見えてきたら、何を準備する? ―プレイヤーのうちに知っておきたいこと、始めておきたいこと―【前編】
キャリアと働き方
2026/10/30
特集
管理職は突然に!? その昇進、OKして大丈夫?

管理職を対象にした調査では、昇進を「希望した」と回答した人は21.0%。一方、47.1%は「特に希望するのではなく流れの中でなった」と回答しています(日本経営協会調べ)。

さらに、現在の管理職の86.8%が、マネジメント業務に加えてプレイヤー業務も担っているという調査結果もあります。

プレイヤーとして働きながら、人やチームをマネジメントする。
そんな二つの役割を同時に担い、成果を上げるにはどうしたらよいのでしょうか。

前編では、管理職になる前に知っておきたいこと、今から始めておきたいことを考えます。

マネジメントやリーダーシップを学ぶ?
もちろんそれも大切ですが、その前に、自分の思考や仕事の進め方を見つめ直してみることも必要かもしれません。

「自分でやった方が早い」と思ったとき、どうする?
自分にとっての「当たり前」が、相手に通じなかったら?

行動経済アナリストの上前先生と一緒に、管理職になる前の準備を始めてみませんか。

(文:D-OMNi編集部)

「管理職は罰ゲーム」なのか

「管理職にはなりたくない」―そんな声を耳にすることが増えました。

責任は重くなる。部下の育成もしなければならない。それでも自分自身の仕事は減らない。
「管理職は罰ゲーム」という言葉まで聞かれるようになった今、管理職になることに前向きになれない人がいても、不思議ではありません。

実際、『日本のミドルマネジャー白書2025』を見ると、管理職への昇進を「希望した」と回答した人は21.0%にとどまり、47.1%は「特に希望するのではなく流れの中でなった」と回答しています。

ところが、管理職としての仕事に充実感が「十分ある」「それなりにある」と回答した人は合わせて70.5%。
約7割の管理職が仕事に充実感を持っています。
もちろん、これだけで「管理職になれば楽しい」と結論づけることはできません。

それでも、「管理職=罰ゲーム」と決めつけてしまうのは、少し早いのかもしれません。

では、もし明日、上司に「来年度から管理職をお願いしたい」と言われたら、何を準備したらよいのでしょうか。
マネジメントの知識、部下への指導方法、リーダーシップ。

これらももちろん大切です。
しかし、その前に準備しておきたいことがあります。

それは、「自分自身の仕事の仕方を変える準備」です。

プレイヤーとして成果を上げてきた人ほど、自分なりの仕事の進め方や考え方を持っています。
その経験は大きな財産ですが、管理職になったとき、その「成功体験」が思わぬ落とし穴になることもあります。

「自分の成功体験」が正解とは限らない


AI制作によるイメージ画像

プレイヤーとして経験を積むと、「こうすればうまくいく」という自分なりの方法が身についていきます。
一方で注意したいのが、「自分がうまくいった方法は、他の人にとってもうまくいく」と考えてしまうことです。

行動経済学には、「一貫性のバイアス」と呼ばれるものがあります。
人は、これまでの自分の考えや行動を変えることに抵抗を感じやすく、「今までこのやり方でうまくいったのだから、これからもうまくいく」と考える傾向があります。

例えば、自分が若手の頃に「仕事は先輩の姿を見ながら覚えた」という経験があれば、「自分もそうやって覚えたのだから、部下もできるはずだ」と考えるかもしれません。

また、自分なら30分で作れる資料を、部下が1時間かけても完成していない。「どうしてこんなに時間がかかるのだろう」と思うこともあるかと思います。
しかし、自分が30分でできるようになるまでには、何年もの経験があったはずです。

ここには、「アンカリング」も関係します。
自分の経験や能力が判断の基準、つまり「アンカー」となり、「自分ならこれくらいできる」「自分の頃はこうだった」という基準で相手を見てしまうのです。

自分にとっての「普通」が、部下にとっての「普通」とは限りません。
大切なのは、自分の成功体験を「正解」として相手に当てはめるのではなく、「一つの方法」として捉え直すことです。

「普通はこうする」「これくらいできて当然」と思ったとき、「これは本当に誰にとっても当たり前なのだろうか」と考えてみる。

自分の「当たり前」を疑うことも、管理職になるための大切な準備の一つです。

「自分でやった方が早い」から抜け出す

管理職になると、これまでとは仕事の進め方も変えていかなければなりません。
その中でも、多くの人がぶつかるのが「自分でやった方が早い」という問題です。

部下に仕事を任せると、説明する時間が必要になります。
途中で質問を受けたり、出来上がったものを確認したり、場合によっては修正をお願いしたりすることもあります。

「これなら自分でやった方が早かった」
そう感じた経験がある人も多いのではないでしょうか。

ここにも、行動経済学でいう「現状維持バイアス」が関係します。
人には、慣れ親しんだ方法を変えることを避け、今まで通りの状態を続けようとする傾向があります。

プレイヤーとして長く仕事をしてきた人にとって、「自分で仕事をする」ことは慣れ親しんだ方法です。
しかも、自分でやれば早く、思い通りの品質に仕上げることができます。

ところが、「自分でやった方が早い」を繰り返していると、別の問題が生まれます。

自分でやる
  • → 部下に経験が蓄積されない
  • → なかなか仕事を任せられない
  • → また自分でやる
という循環です。

『日本のミドルマネジャー白書2025』では、ミドルマネジャーの86.8%が、管理職としての仕事だけではなく、プレイヤーとしての仕事も担っています。
さらに、現在の仕事上の課題として23.9%が「プレイヤーとしての業務が多すぎる」と回答しています。
もちろん、プレイヤーとして働くこと自体が問題なのではありません。

大切なのは、「自分がやる仕事」と「人に任せる仕事」を意識して分けることです。

そして、この練習は管理職になってから始める必要はありません。
例えば、会議資料の一部を後輩に作ってもらう。簡単な集計作業を任せる。自分がいつも担当している業務の一部を、やり方を説明したうえで任せてみる。

最初は、自分でやるより時間がかかるかもしれません。
しかし、人に任せることは、単に自分の仕事を減らすことではありません。
相手に経験する機会を渡すことでもあります。

「自分でやった方が早い」と思ったときこそ、「これは本当に自分がやるべき仕事だろうか」と考えてみる。

管理職になる前から、小さな仕事を人に任せる経験を増やしておくことが、「自分で成果を出す」働き方から、「人を通じて成果を出す」働き方へ移るための準備になるのです。

AI制作によるイメージ画像

「教える」だけでは、人は育たない

仕事を任せることに加えて、もう一つ意識しておきたいことがあります。
それは、「考えること」も相手に任せることです。

『日本のミドルマネジャー白書2025』では、OJTを行う際の悩みとして、32.8%が「指示したことはやるが、自発性が見られない」と回答しています。

「言われたことはやるけれど、自分から考えて動いてくれない」。
部下や後輩に対して、このように感じたことがある人もいるのではないでしょうか。

しかし、ここで少し考えてみたいことがあります。
部下から「これはどうすればいいですか?」と聞かれたとき、すぐに答えを教えていないでしょうか。

経験を積んだ人ほど、答えが見えます。

「こうすればいいよ」「まず○○をやって」「私ならこうする」と教えた方が早く、相手も迷わず行動できます。
ところが、いつも答えを教えていると、相手は「分からなければ聞けばいい」と考えるようになり、自分で考える機会が少なくなってしまいます。

そこで、すぐに答えを教えるのではなく、「あなたはどうするのがいいと思う?」「どんな方法が考えられる?」「まず何から始められそう?」と、一度問いかけてみます。

これは、コーチングの基本的な考え方でもあります。
答えを与えるのではなく、質問を通じて相手自身に考えてもらうのです。

もちろん、何でも質問で返せばよいわけではありません。
知識や経験がない人に「どう思う?」と聞いても、答えられないことがあります。
緊急性の高い仕事や、正確な手順が求められる仕事では、具体的に教えることも必要です。

大切なのは、「教える」と「考えてもらう」を使い分けることです。

管理職になる前から、後輩や同僚とのやり取りの中で「すぐに答えを教えず、まず一つ質問してみる」。
そんな小さな習慣が、自分で考えて動ける人を育てるための準備につながります。


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管理職になる準備は、今日からできる

ここまで見てきたことは、管理職になってからでなければできないことではありません。

  • 自分の「当たり前」を疑ってみる
  • 小さな仕事から人に任せてみる
  • すぐに答えを教えず、まず一つ質問してみる
どれも、プレイヤーである今から始められることです。

管理職になる準備というと、マネジメントやリーダーシップの知識を身につけることに目が向きがちです。
しかし、それと同じくらい大切なのが、「自分で成果を出す」という働き方から、少しずつ視点を広げていくことではないでしょうか。

もちろん、管理職になったからといって、自分で仕事をしなくてよくなるわけではありません。
調査結果のとおり、多くの管理職がプレイヤーとしての仕事も担っています。

だからこそ、「自分でやる」と「人に任せる」のどちらか一方ではなく、その間でどうバランスを取るかが重要になります。

管理職になってから慌てて働き方を変えるのではなく、プレイヤーのうちから少しずつ準備を始めておく。
その経験は、いざ管理職になったときの大きな助けになるはずです。

では、実際に管理職になり、自分の仕事を抱えながら部下にも動いてもらうには、どうすればよいのでしょうか。

後編では、行動経済学の「ナッジ」なども手がかりにしながら、「自分でやる」と「人に任せる」の間で、管理職がどのように人や仕事と向き合えばよいのかを考えていきます。

この記事の執筆者

上前 拓也(かみまえ たくや)

合同会社友歩 代表
行動経済アナリスト

企業・自治体等を対象に、コーチング、マネジメント、行動経済学などをテーマとした研修・講演を行う。 これまでに2,000回以上の研修・講演に登壇。

主な著書
『「初めまして」が楽しくなる!初対面の会話術』(セルバ出版)
『集中力を高める本』(エイチエス) など。

キーワード:組織チーム上司部下コミュニケーション学び
成長マネジメント仕事の進め方未来
連載名:特集
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