古くから語り継がれてきた言葉や、かつて社会をにぎわせた出来事には、現代の仕事や人間関係を考えるヒントがあります。 本連載では、「温故知新」をテーマに、時代を超えて変わらない人や組織の本質を見つめ直します。 執筆者は、経営教育・能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に携わってきた本田有明氏。 小説・児童書の分野でも著作を重ねてきた筆者が、長年の経験と幅広い視点から、世代論や流行の言葉に振り回されず、人や組織を見つめ直すためのヒントをお届けします。
(文:D-OMNi編集部)
目次
前回の記事で、パワハラが起きる一端について記した。 自分で思っている自分と、人に見られている自分とではかなりの差があるものだ。 とくにできる人ほどその傾向が強いと。 今回は掘り下げるかたちで、できる人向けに自己分析のチェックリストを掲げてみよう。 かつて私のクライアント会社にも、部下との人間関係がうまくゆかず頻繁に問題を起こす管理職が何人もいた。 観察してみると、彼らには共通要素があった。
アメリカの産業界では一時期、これに該当する管理職を「derailer(ディレーラー)=脱線する人」と呼び、 組織に軋轢と停滞を生じさせる者、として注意を呼びかけた。 ディレーラーの特徴をあげると、①自分本位、②過剰攻撃、③責任転嫁、④情緒不安などである。 自分は有能だと自負している人、ひごろ部下や後輩の無能さにカリカリしている人、ものごとがうまく進捗しないのはまわりのせいだと思っている人、 そのせいで感情の起伏が大きくなっている人は、ここで自己分析をしていただきたい。 次のチェックリストのうち、該当するものはいくつあるだろうか。 自分とは異なる意見を人から言われるとすぐに腹が立つ。 自分の間違いを指摘されても認める気にはならない なにか問題が起こると自分以外の人間に原因を求める。 正しい答えが出せるのは自分以外にいないと思っている。 いつも自分の思うとおりのやり方を部下に強制している。 部下の言い分を聞く前に自分の意見を押しつけがちだ。 任せた仕事を任せきれず部下に干渉することがよくある。 ときにはその仕事を部下から奪い自分でやってしまう。 約束を破っても自分は多忙なのだから仕方がないと思う。 自分の仕事の大変さを周囲の者たちはもっと評価すべきだ。 少しくらい職務規定にふれても自分は許されてよいと思う。 小さなことにいらだって人を怒鳴りつけることが多い。 日によって気分の浮き沈みが大きくなったという自覚がある。 以前と比べ睡眠時間や食事など生活のサイクルが乱れてきた。 部下が起こした失敗を思い出してイライラすることがある。 自分に有能感をもっている人なら、誰でもいくつかは該当するだろう。 しかし上記の15項目のうち5つ以上となると、黄色信号がともる。 時間の経過とともに該当する項目が増える傾向があるからだ。 半数以上が当てはまるようなら、りっぱなディレーラー予備軍と自覚したほうがよい。 職場の信号が赤に変わっても、そのまま突っ走って脱線する可能性がある。
その昔、おもしろい人材論を説いた人がいた。 江戸時代のお殿様、佐賀藩の初代藩主・鍋島勝茂である。 彼は奉公人の能力を、理解力と行動力とで次の4つに分類した。 ①急急、②急だらり、③だらり急、④だらりだらり。 ①は、ものごとの理解が早く行動も迅速である者。 ②は、理解は早いが、行動が遅い者。 ③は、②の逆。 ④は、理解も行動も遅い者。 そして、ここが肝心なのだが、 ①に属する者は、藩全体を見渡しても数えるほどしかいない。 多くは②か③である、と藩主は言った。 だから寛容の心で彼らに接しなければならない、育てなければならない、との思いが透けて見える。 平易な言葉をつかった単純な教えだが、ディレーラー候補の方たちにはたいへん参考になる視点ではないか。 出典:山本常朝『葉隠』 参考:本田有明『ヘタな人生論より葉隠』(河出書房新社、2004年)
この記事の執筆者
本田 有明(ほんだ ありあけ)
本田コンサルタント事務所 代表
1952年、兵庫県神戸市生まれ。慶應義塾大学哲学科卒業後、社団法人日本能率協会に勤務する。経営事業本部、情報開発本部などに所属し、部長職を務める。1996年に人材育成コンサルタントとして独立。主に経営教育、能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事している。懇切丁寧な指導と明快な語り口調には定評がある。また作家として、小説・児童書の分野でも著作が多い。
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