中小企業経営のリアルと実践(3)
起業・事業承継と経営者の覚悟(前編)
大廃業時代における「起業」と「事業承継」―経営理論から読み解く事業承継―
日本の中小企業が直面する「大廃業時代」の現実
現在、日本の中小企業は「大廃業時代」とも呼ぶべき深刻な局面を迎えています。
2025年版・2026年版『中小企業白書』(中小企業庁刊行)の内容を参考に現状を見ていきましょう。
国内中小企業の約8割を同族企業(ファミリービジネス)が占めるなか、後継者不足などを背景に年間約7万社もの企業が休廃業・解散を余儀なくされています。
新たに年間約14万社が起業されるものの、優れた技術や地域に根ざした顧客基盤を持つ企業が、後継者不在のためだけに市場から消えていく現実は、日本経済全体にとっても大きな損失です。
画像:生成AIにて作成
日本の開業率は5.1%、廃業率は3.5%で、いずれも欧米の半分以下の水準にとどまります。経営者の高齢化も顕著であり、平均年齢は60.1歳、50.8%が後継者未定の状況です。地方都市の例として大分県を見ても、後継者不在率は6年連続で改善したものの55.8%と依然として高く
※1、今後10年で経営者引退のピークを迎えることから地域経済への深刻な影響が懸念されています。
大廃業時代を乗り切る起業と事業承継―「質の異なる大変さ」
この大廃業時代を解決するのは起業だけではありません。事業承継という方法も大きな選択肢と考えています。
ただ、起業も事業承継もどちらも容易な道ではなく、直面する「大変さの質」にはどのような違いがあるのか比較しておきましょう。
●起業への挑戦
資金調達、顧客開拓、人材確保など、あらゆる基盤を「ゼロから」作る苦労があります。一方で、失敗した際のリスクは基本的に自己責任に帰結するため、事業構築における自由度は非常に高いと言えます。
●事業承継への挑戦
すでに存在する事業運営のノウハウ、従業員、取引先、先代の想い、さらには事業の負債までを引き継ぎつつ、「既存のものを守りながら変える」という、矛盾する課題に挑む挑戦です。失敗した際の影響が多くのステークホルダーに及ぶため、背負う責任とプレッシャーは重いものとなります。
私の周囲には事業承継に果敢に挑む方も少なくありません。
起業を目指す方に対して私は、事業承継をもっと選択肢として考慮しても良いのではとアドバイスしています。
経営理論から学ぶ事業承継のポイント
事業承継を紐解く上で、学術的な経営理論は有効な視点を提供してくれます。その一部をご紹介しましょう。
●ペンローズ『企業成長理論』
事業承継において重要なのは、単なる株式や資産の移転ではなく、「経営者としての管理・舵取り能力」そのものを承継することに他なりません。ペンローズは企業を「資源の束」と捉え、その成長は内部資源、特に「経営者の能力」に制約されると説きました。
●バーニー『リソース・ベースド・ビュー(RBV)』
事業承継は、創業者が長年培った顧客との信頼関係やノウハウといった「目に見えない資産」をいかに承継するかが成功の鍵を握ります。なぜなら企業の競争優位は、価値・希少性・模倣困難性・組織化された内部資源に由来するからです。
●シュンペーター『企業者精神論』
事業承継とは先代の手法をそのままなぞるのではなく、伝統を守りながら新たな市場や手法を開拓する革新のプロセスなのです。シュムペーターは経済発展を促す本質を「イノベーション(新結合)」と定義しました。
次回は、事業承継の具体的実践プロセスと、受け継ぐ者に求められる「覚悟」、そして経営者という生き方がもたらす「創造の喜び」について探っていきます。
※1
『大分県・「後継者不在率」動向調査(2025年)』(帝国データバンク)
この記事の執筆者
橋本堅次郎(はしもと・けんじろう)
日本文理大学学長
専門分野は経営学、組織変革、流通経営。「組織と人の成長に貢献する」が長年のミッション。小売業・コンサルタントファームを経て役員・管理職として食品業(東証1部)等の上場に携わる。 人材育成事業を起業後、2011年より日本文理大学経営経済学部教授として学生と社会人の指導、地域活性活動を行い、ミッションの実現に尽力している。2021年4月より日本文理大学学長に就任。