プレイヤーであり、マネジャーでもある ―「自分でやる」と「人に任せる」の間で―【後編】

プレイヤーであり、マネジャーでもある ―「自分でやる」と「人に任せる」の間で―【後編】
キャリアと働き方
2026/11/02
特集
部下が動いてくれるようになる、ちょっとした工夫
現在の管理職の86.8%が、マネジメント業務に加えてプレイヤー業務も担っているという調査結果があります(日本経営協会調べ)。

プレイヤーとして働きながら、人やチームをマネジメントする。
そんな二つの役割を同時に担い、成果を上げるにはどうしたらよいのでしょうか。

後編では、実際に管理職になってからの「自分でやる」と「人に任せる」のバランスについて考えます。

部下に任せたいのに、任せられない!
ちゃんと指示したのに、どうして動いてくれない?
仕事を任せた後、どこまで関わればいい?

行動経済の「ナッジ」などを手がかりに、部下が自ら動きやすくなる工夫を探ります。

(文:D-OMNi編集部)

任せたい。でも、任せられない


AI制作によるイメージ画像

管理職になったからといって、プレイヤーとしての仕事がなくなるわけではありません。

自分自身の仕事を抱えながら、部下の育成やチームのマネジメントも求められます。
「部下に仕事を任せたい。でも、任せると時間がかかる」
「自分でやった方が早い。でも、このままでは自分の仕事が減らない」
そんなジレンマを抱えている管理職も多いのではないでしょうか。

前編では、管理職になる前から「自分でやる仕事」と「人に任せる仕事」を意識して分けることの大切さをお伝えしました。
しかし、実際に仕事を任せれば、それだけで部下が自ら考え、期待通りに動いてくれるとは限りません。
では、どうすればよいのでしょうか。

ここで少し視点を変えてみます。

「どうすれば部下を動かせるか」ではなく、「どうすれば部下が動きやすくなるか」。

そのヒントを与えてくれるのが、行動経済学です。

正しいことを伝えれば、人は動くとは限らない

部下に仕事をしてもらうとき、管理職は当然、「どうすれば正しく伝わるか」を考えます。

「期限までに提出してください」
「何かあったら早めに相談してください」
「もっと主体的に考えて行動してください」

どれも間違ったことを言っているわけではありません。
それでも、期限ぎりぎりまで提出されなかったり、問題が大きくなってから相談されたり、なかなか自分から動いてくれなかったりすることがあります。

「ちゃんと伝えたのに、なぜ動いてくれないのだろう」
ここで参考になるのが、行動経済学の考え方です。

従来の経済学では、人はさまざまな情報をもとに合理的に判断し、自分にとって望ましい行動を選択すると考えられてきました。
しかし実際の私たちは、いつも合理的に行動しているわけではありません。

「早くやった方がいい」と分かっているのに、先延ばしする。
「相談した方がいい」と分かっていても、もう少し自分で何とかしようとする。
「意見を言った方がいい」と思っていても、周囲の様子を見て発言を控えてしまう。

こうした人間の「分かっているのに、その通りには行動しない」という特徴を知ることは、マネジメントにも役立ちます。

部下が動かないとき、「やる気がない」「主体性がない」と本人の問題だけで考えるのではなく、「行動しにくい状況になっていないだろうか」と考えてみるのです。

そこで注目したいのが、「ナッジ」という考え方です。

「ナッジ」で、人が動きやすい環境をつくる

ナッジ(nudge)とは、直訳すると「そっと後押しする」という意味です。

命令や強制をするのではなく、本人が自由に選択できる状態を保ちながら、より望ましい行動を取りやすくする考え方です。

例えば、社員食堂で健康的なメニューを選んでもらいたいとき、野菜料理を目につきやすい場所に置くことで、自然に選ばれやすくする。これもナッジの一例です。

職場でも活用できます。
例えば、期限までに資料を提出してほしいとき、「金曜日までに提出してください」と伝えるだけではなく、「すでに8割のメンバーが提出を終えています」と知らせる。
人は周囲の行動に影響を受ける傾向があるため、「多くの人が提出しているなら、自分も提出しよう」という行動を後押しすることができます。

部下が期待通りに動かないと、「もっと意識を高く持ってほしい」「もっと主体的に動いてほしい」と、本人の意識を変えようとしがちです。

しかし、人を変えようとするだけではなく、「どうすれば自然に行動しやすくなるか」と考えてみる。

管理職が環境や仕事の与え方を少し工夫することで、部下の行動を後押しできることがあります。
では、具体的にどのような工夫ができるのでしょうか。

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EASTで「動きやすさ」を考える

ナッジを職場で活用するとき、参考になるフレームワークの一つが「EAST」です。

人の行動を後押しするために、Easy(簡単に)、Attractive(魅力的に)、Social(社会的に)、Timely(タイミングよく)の4つの視点から考えます。
例えば、部下になかなか報告の習慣が身につかないとします。

Easy(簡単に)の視点なら、報告する項目を減らしたり、入力しやすいフォーマットを用意したりして、「報告する手間」を小さくします。

Attractive(魅力的に)の視点なら、報告したことで「何が良くなったのか」が分かるようにします。
「早めに報告してくれたので、すぐに対応できたよ」と伝えることで、報告することのメリットを感じやすくします。

Social(社会的に)の視点なら、先ほどの「すでに8割のメンバーが提出を終えています」のように、周囲の人がどのように行動しているかを伝えます。
人は周囲の行動から影響を受けるため、「自分もやろう」という気持ちが生まれやすくなります。

Timely(タイミングよく)の視点なら、「何かあったら相談して」と伝えるだけではなく、新しい仕事を任せるときや、判断に迷いそうな場面で「困ったら早めに相談してね」と声をかける。
必要な行動を、適切なタイミングで促します。

このように考えると、「部下が動いてくれない」という問題に対しても、本人のやる気や能力だけではなく、管理職側にも工夫できることが見えてきます。

「もっとしっかりやってほしい」と考える前に、「もっと簡単にできないか」「行動したくなる工夫はないか」「周囲の力を活かせないか」「伝えるタイミングを変えられないか」と考えてみる。
人を変えようとするより、まず環境を変えてみる。
EASTは、そのための具体的なヒントを与えてくれます。

環境を整えたら、あとは任せていい?

EASTを意識して、部下が動きやすい環境を整えることは大切です。
しかし、環境を整えたからといって、「あとは本人に任せればいい」というわけではありません。

人はいつも期待通りに動くとは限りません。仕事を進める中で迷ったり、判断に困ったり、思わぬところでつまずいたりすることもあります。
だからこそ、仕事を任せた後は、部下の行動を見守ることが必要です。

ただし、「見守る」と「細かく管理する」は違います。

心配だからと何度も進捗を確認したり、やり方まで細かく指示したりすれば、部下は「自分で考えるより、上司に確認した方がいい」と考えるようになるかもしれません。
一方で、「任せたから」と何も確認しなければ、問題を抱えていても気づけないことがあります。

大切なのは、任せた後も適度に関わりながら、必要なときに支援できる状態をつくっておくことです。

「順調?」「何か困っていることはない?」と声をかける。
迷っている様子があれば、一緒に考える。
しかし、自分で進められているなら、任せて見守る。

人が動きやすい環境をつくり、その中で本人に考え、行動してもらう。そして、必要なときには支援する。
「任せる」と「放置する」の違いは、ここにあるのではないでしょうか。


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「自分でやる」と「人に任せる」の間で

プレイングマネジャーは、自分自身も成果を出しながら、部下やチームの成果にも目を向けなければなりません。
すべてを自分でやることもできなければ、すべてを部下に任せることもできません。

だからこそ大切なのは、「どうすれば部下を動かせるか」と考えるだけではなく、「どうすれば部下が動きやすくなるか」という視点を持つことです。

人が動きやすい環境をつくり、任せた後は見守る。
そして、必要なときには支援する。

管理職の仕事は、自分が動いて成果を出すことから、人を通じて成果を生み出すことへと少しずつ広がっていきます。

「自分でやる」と「人に任せる」の間で、そのバランスを考え続けること。
それも、プレイヤーであり、マネジャーでもある人に求められる大切な役割の一つだと思います。

この記事の執筆者

上前 拓也(かみまえ たくや)

合同会社友歩 代表
行動経済アナリスト

企業・自治体等を対象に、コーチング、マネジメント、行動経済学などをテーマとした研修・講演を行う。 これまでに2,000回以上の研修・講演に登壇。

主な著書
『「初めまして」が楽しくなる!初対面の会話術』(セルバ出版)
『集中力を高める本』(エイチエス) など。

キーワード:組織チーム上司部下コミュニケーション学び
成長マネジメント仕事の進め方未来
連載名:特集
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