(文:D-OMNi編集部)
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管理職になったからといって、プレイヤーとしての仕事がなくなるわけではありません。 自分自身の仕事を抱えながら、部下の育成やチームのマネジメントも求められます。 「部下に仕事を任せたい。でも、任せると時間がかかる」 「自分でやった方が早い。でも、このままでは自分の仕事が減らない」 そんなジレンマを抱えている管理職も多いのではないでしょうか。 前編では、管理職になる前から「自分でやる仕事」と「人に任せる仕事」を意識して分けることの大切さをお伝えしました。 しかし、実際に仕事を任せれば、それだけで部下が自ら考え、期待通りに動いてくれるとは限りません。 では、どうすればよいのでしょうか。 ここで少し視点を変えてみます。 「どうすれば部下を動かせるか」ではなく、「どうすれば部下が動きやすくなるか」。 そのヒントを与えてくれるのが、行動経済学です。
部下に仕事をしてもらうとき、管理職は当然、「どうすれば正しく伝わるか」を考えます。 「期限までに提出してください」 「何かあったら早めに相談してください」 「もっと主体的に考えて行動してください」 どれも間違ったことを言っているわけではありません。 それでも、期限ぎりぎりまで提出されなかったり、問題が大きくなってから相談されたり、なかなか自分から動いてくれなかったりすることがあります。 「ちゃんと伝えたのに、なぜ動いてくれないのだろう」 ここで参考になるのが、行動経済学の考え方です。 従来の経済学では、人はさまざまな情報をもとに合理的に判断し、自分にとって望ましい行動を選択すると考えられてきました。 しかし実際の私たちは、いつも合理的に行動しているわけではありません。 「早くやった方がいい」と分かっているのに、先延ばしする。 「相談した方がいい」と分かっていても、もう少し自分で何とかしようとする。 「意見を言った方がいい」と思っていても、周囲の様子を見て発言を控えてしまう。 こうした人間の「分かっているのに、その通りには行動しない」という特徴を知ることは、マネジメントにも役立ちます。 部下が動かないとき、「やる気がない」「主体性がない」と本人の問題だけで考えるのではなく、「行動しにくい状況になっていないだろうか」と考えてみるのです。 そこで注目したいのが、「ナッジ」という考え方です。
ナッジを職場で活用するとき、参考になるフレームワークの一つが「EAST」です。 人の行動を後押しするために、Easy(簡単に)、Attractive(魅力的に)、Social(社会的に)、Timely(タイミングよく)の4つの視点から考えます。 例えば、部下になかなか報告の習慣が身につかないとします。 Easy(簡単に)の視点なら、報告する項目を減らしたり、入力しやすいフォーマットを用意したりして、「報告する手間」を小さくします。 Attractive(魅力的に)の視点なら、報告したことで「何が良くなったのか」が分かるようにします。 「早めに報告してくれたので、すぐに対応できたよ」と伝えることで、報告することのメリットを感じやすくします。 Social(社会的に)の視点なら、先ほどの「すでに8割のメンバーが提出を終えています」のように、周囲の人がどのように行動しているかを伝えます。 人は周囲の行動から影響を受けるため、「自分もやろう」という気持ちが生まれやすくなります。 Timely(タイミングよく)の視点なら、「何かあったら相談して」と伝えるだけではなく、新しい仕事を任せるときや、判断に迷いそうな場面で「困ったら早めに相談してね」と声をかける。 必要な行動を、適切なタイミングで促します。 このように考えると、「部下が動いてくれない」という問題に対しても、本人のやる気や能力だけではなく、管理職側にも工夫できることが見えてきます。 「もっとしっかりやってほしい」と考える前に、「もっと簡単にできないか」「行動したくなる工夫はないか」「周囲の力を活かせないか」「伝えるタイミングを変えられないか」と考えてみる。 人を変えようとするより、まず環境を変えてみる。 EASTは、そのための具体的なヒントを与えてくれます。
EASTを意識して、部下が動きやすい環境を整えることは大切です。 しかし、環境を整えたからといって、「あとは本人に任せればいい」というわけではありません。 人はいつも期待通りに動くとは限りません。仕事を進める中で迷ったり、判断に困ったり、思わぬところでつまずいたりすることもあります。 だからこそ、仕事を任せた後は、部下の行動を見守ることが必要です。 ただし、「見守る」と「細かく管理する」は違います。 心配だからと何度も進捗を確認したり、やり方まで細かく指示したりすれば、部下は「自分で考えるより、上司に確認した方がいい」と考えるようになるかもしれません。 一方で、「任せたから」と何も確認しなければ、問題を抱えていても気づけないことがあります。 大切なのは、任せた後も適度に関わりながら、必要なときに支援できる状態をつくっておくことです。 「順調?」「何か困っていることはない?」と声をかける。 迷っている様子があれば、一緒に考える。 しかし、自分で進められているなら、任せて見守る。 人が動きやすい環境をつくり、その中で本人に考え、行動してもらう。そして、必要なときには支援する。 「任せる」と「放置する」の違いは、ここにあるのではないでしょうか。
プレイングマネジャーは、自分自身も成果を出しながら、部下やチームの成果にも目を向けなければなりません。 すべてを自分でやることもできなければ、すべてを部下に任せることもできません。 だからこそ大切なのは、「どうすれば部下を動かせるか」と考えるだけではなく、「どうすれば部下が動きやすくなるか」という視点を持つことです。 人が動きやすい環境をつくり、任せた後は見守る。 そして、必要なときには支援する。 管理職の仕事は、自分が動いて成果を出すことから、人を通じて成果を生み出すことへと少しずつ広がっていきます。 「自分でやる」と「人に任せる」の間で、そのバランスを考え続けること。 それも、プレイヤーであり、マネジャーでもある人に求められる大切な役割の一つだと思います。
この記事の執筆者
上前 拓也(かみまえ たくや)
合同会社友歩 代表 行動経済アナリスト
企業・自治体等を対象に、コーチング、マネジメント、行動経済学などをテーマとした研修・講演を行う。 これまでに2,000回以上の研修・講演に登壇。 主な著書 『「初めまして」が楽しくなる!初対面の会話術』(セルバ出版) 『集中力を高める本』(エイチエス) など。
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