首長給与はどのように決まるのか
今回も、首長の「経済的動機」について掘り下げます。
まず、首長の報酬の決定の仕組みについて説明します。
首長の給与は、地方自治法204 条および204 条の2 などに基づいて条例で定める必要があります。
また、その額については、地域の有識者や住民で構成される特別職報酬等審議会といった諮問機関が多くの自治体に設置されており、その答申を踏まえて条例案として議会に提出されるのが一般的です。
給与の妥当性を判断する際には、職責、類似自治体の状況、財政状況、社会経済状況など、多様な観点から審議される傾向があります。
つまり、首長の給与に関する改正条例案は行政側から提出されることが多いのですが、首長自身が自らの給与額を直接決定しているわけではありません。
住民と議会という二つの民主的な過程を経て決定されるのが一般的です。
一方で、首長の給与を減額する場合には、必ずしも先ほど述べた全ての流れを経ずに改正案が提出されることもあります。
給与減額の主な理由としては、財政状況の悪化、行政の不祥事、首長自身の政治理念などが挙げられます。
また、給与を減額する条例改正案については、議会側から提出される場合もあります。
これらを踏まえて、しばしば話題になるのが、首長の政治理念に基づいて給与や退職金が減額されるケースです。
例えば、市長自らが「身を切る改革」の姿勢を示すために給与や退職手当を削減することは、特に関西地方の自治体を中心に事例が見られます。
選挙公約として給与や退職金の減額が掲げられる場合には、そのこと自体が有権者に対する訴求点として意図されることもあります。
こうした政治理念に基づく給与や退職金の減額については、首長が改革への姿勢を示すことに肯定的な意見もある一方で、首長の職責に照らして適切な対価を受け取るべきだとする意見もあり、賛否が分かれます。
市民評価を首長給与に反映する試み
さらに、大阪府寝屋川市および箕面市では市民の評価を給与に反映させる条例が、茨城県つくば市では市民の評価を退職金に反映させる条例が制定されています。
例えば、令和7年6月に箕面市で導入された市民評価連動型給与制度では、「市長の『経営責任』を明確化するとともに、市民の『市政への関心と納得感』を高めることを目的として、市政運営に対する評価の結果に応じて、市長の給与の増減幅を決定する」とされています。
市民の評価は市民満足度アンケートで実施されました。
同市のホームページによると、調査期間は「令和7年8月22 日~令和7年9月22日」、調査対象は「市内在住の16歳以上の市民から無作為抽出2,000人」で、有効回答数は1,051でした。
設問は「あなたは市の経営に責任を持つ市長の市政運営を評価しますか。」という内容で、結果は肯定的評価が86.7%となり、市長の給与は10%増額されました。
このように、住民の評価を給与額に反映させようとする取り組みは、新しい挑戦として注目されます。
また、箕面市では制度の目的に「経営責任」という言葉が用いられており、行政経営の観点から興味深い点でもあります。
首長の待遇を行政経営の視点で考える
なお、給与や退職金の減額は、多くの場合、その首長の任期において特例的に行われる傾向があり、次の
首長の待遇を拘束するものではありません。
首長の待遇は住民の関心が比較的高く、政治的な論点となりやすいテーマです。
今後は、政治的観点だけでなく、地域の実情も踏まえ、住民や議会が政策的に議論し、首長の待遇のあるべき姿を恒常的な仕組みにすることが行政経営の観点からは必要だと考えます。
次回からは、首長を動かす3つ目の要素である名声的動機について取り上げます。
引き続き「自治体経営への旅」にご一緒いただけましたら幸いです。
この記事の執筆者
菅原 直敏(すがわら なおとし)
福島県磐梯町「旅する」副町長
旅人、ソーシャルワーカー及び経営者。2024年4月より福島県磐梯町「旅する」副町長に就任。 共生社会の共創をミッションに、日本初の自治体CHRO(最高人事責任者)として、「働き方の再デザイン」を牽引する。 一般財団法人旅代表理事、CoCo Consulting 株式会社代表取締役として、非営利団体、営利企業の経営も行なっている。