【No.10】利害関係者から考える自治体経営(首長編)その6

【No.10】利害関係者から考える自治体経営(首長編)その6
組織とマネジメント
2026/01/01
連載:「旅する」副町長の自治体経営への旅

※本記事は、『オムニ・マネジメント』2026年1月号掲載内容を再編集のうえ掲載しています。

人口減少や少子高齢化が進むなか、自治体にはこれまで以上に難しい判断が求められています。
「アレもコレも」から「アレかコレか」へ――。限られた資源のなかで、地域の未来をどう描き、何を選び取っていくのか。
本連載では、自治体職員や自治体との協業に関わる企業の方に向けて、これからの自治体経営を考える視点をお届けします。
執筆者は、福島県磐梯町の旅する副町長をはじめ、公共・ビジネス・非営利の各分野で地域づくりに関わり、全国100以上の自治体と協働・共創を重ねてきた菅原直敏氏です。

(文:D-OMNi編集部)

名声的動機とは何か

これまで、首長の動機について、使命的動機、経済的動機と順に整理してきました。
今回取り上げるのは「名声的動機」です。

名声的動機とは、人から認められたい、評価されたいという内発的な動機を指します。
承認欲求とも言い換えられるこの動機は、多かれ少なかれ誰もが持つ人間の基本的な欲求であり、決して特別なものではありません。

首長という立場は、地域を代表し、政策の成果や失敗が可視化されやすいことから、この名声的動機が特に強く働く役割だと言えます。

首長は、選挙によって住民から直接選ばれる存在です。
当選という結果そのものが、住民からの承認であり、強い名声的報酬となります。
これは行政内部や議会からの評価とは異なり、住民全体から可視的に与えられる点に特徴があります。

政策や言動がメディアやSNS を通じて広く共有される現代においては、その評価の影響力はさらに大きくなっています。
そのため、首長職は名声的動機が制度的に組み込まれた役割であるとも言えるでしょう。

評価されたい思いが生む力

元千葉県松戸市の市長で、「すぐやる課」の創設等で著名な松本清氏は、市長の在任中に自身の月給を自主的に返納していたと言われています。

ドラッグストア「マツモトキヨシ」の創業者でもある同氏にとって、市長への就任は経済的な成功とは異なる名声的な意味を持っていたと考えられます。
地域の課題解決に正面から向き合い、その成果が広く評価されること自体が、大きな動機となっていた可能性があります。
首長経験は、その人の人生や評価の文脈を大きく広げる要素となり得ます。

また、このような名声的動機は、住民にとっても一定の利点があります。

評価されたいという意識は、説明責任を果たそうとする姿勢や、情報公開への意欲につながりやすく、結果として行政の透明性を高める方向に働く場合があります。
加えて、住民との対話を重視し、政策の背景や意図を丁寧に伝えようとする動機づけにもなり得ます。

名声的動機は、首長個人の内面にとどまらず、行政運営の姿勢や組織文化にも影響を与えるのです。

さらに、名声的動機があることで、経済的な動機だけでは首長を志しにくい人材、例えば民間で一定の地位や収入を得てきた人材が立候補する素地が生まれます。
これは首長人材の多様性を確保するうえで重要な役割を果たしており、自治体経営に新たな視点や発想をもたらす可能性を広げています。

過度な評価意識のリスク

一方で、この名声的動機は、使い方を誤れば行政経営に歪みをもたらす可能性も内包しています。
名声や評価が過度に意識されることで、短期的な成果や目立つ施策に偏り、地道だが重要な取り組みが後回しになるリスクがあるからです。

次回は、この名声的動機が持つもう一つの側面、すなわち懸念点について整理していきます。
首長を動かす名声的動機について、行政経営上の課題という観点から掘り下げて行きます。

引き続き「自治体経営への旅」にご一緒いただけましたら幸いです。

この記事の執筆者

菅原 直敏(すがわら なおとし)

福島県磐梯町「旅する」副町長

旅人、ソーシャルワーカー及び経営者。2024年4月より福島県磐梯町「旅する」副町長に就任。 共生社会の共創をミッションに、日本初の自治体CHRO(最高人事責任者)として、「働き方の再デザイン」を牽引する。 一般財団法人旅代表理事、CoCo Consulting 株式会社代表取締役として、非営利団体、営利企業の経営も行なっている。

キーワード:組織マネジメント社会経営
連載名:連載:「旅する」副町長の自治体経営への旅
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