高市首相にあやかりたい?
画像:生成AI作成
今年の7月、高市早苗首相が記したSNSの記事が話題になった。
注目されたのは、この人の総理就任以来の睡眠時間が、1日0から3時間という箇所だ。
多忙な時期は誰でも睡眠時間が短くなったり、たまに徹夜になったりすることはある。
しかし、ほぼ毎日3、4時間しか眠らない、それで問題ないという人はめったにいない。
めったにいないということは、ごく稀にはいるらしいということで、そのような人をショートスリーパー(短時間睡眠者)とよぶ。
高市首相がほんとうに短時間睡眠でばりばり仕事をこなしているなら、自分もそれにあやかりたいという人が出てくるのも当然のことで、
私のまわりにもチャレンジしかけた者がいた。
1日1時間、睡眠時間を削れたら、単純計算で年間365時間、約15日分の時間が生まれる。
それを活動にあてることができたら、人生全体の生産性もさぞかし上がるだろう。
そう考える人はいつの時代にもいるもので、この睡眠問題は古くから人類が注目してきたテーマの一つだった。
『養生訓』と『ナポレオン睡眠』
健康について論じた日本の古典に『養生訓』がある。
江戸時代の福岡藩に仕えた儒学者、医師の貝原益軒によるもので、養生の心得を庶民向けに記した本として当時のベストセラーになった。
基本は、食欲・色欲・嗜眠欲など、身体に備わっている欲求を適切に管理(腹八分目のように)することを説いている点だ。
睡眠についても多々論じているが、夜更かしはしない、大人の昼寝は控えるなど、睡眠のとりすぎに注意を促している。
時代的な背景を考えれば、当時は照明が暗く乏しいため、惰眠をむさぼる傾向があったのではないかと推測できる。
短時間睡眠の奨励ではなく、必要以上に寝るなと貝原は諭した。
ショートスリーパーの例として、よくナポレオン・ボナパルトが引き合いに出されることがある。
日本でも半世紀近く前に「ナポレオン睡眠」が話題となり、同名の著書がロングセラーとなった。
ナポレオンは、夜間に3、4時間しか眠らなかったというエピソードは事実のようだが、
あくまでも「夜間に」ということで、彼は日中、15分から30分程度の仮眠を頻繁にとっていたそうだ(多相睡眠)。
合計すれば1日の睡眠時間は6時間程度になることは、秘書も証言している。
短時間睡眠で悟りを開こうとした人
ショートスリーパーをめざしてがんばる人は、いつの時代にも見られるが、
私が知る中で最も興味深い例は、昭和の文士・坂口安吾である。
『堕落論』『日本文化私観』などで戦後文壇の寵児となった人だが、彼は若いころ僧侶になろうと決意し、煩悩を捨てるべく4時間睡眠に挑んだ。
午後10時に寝て、午前2時に起きる。
眠いときは冬でも井戸端で冷水を浴び、なにがなんでも2時に起きる。
その生活を1年半も続けたというのだから、すごい精神力だ。はたして煩悩は滅却できたのか。
かつて走り幅跳びの選手として活躍した男が、目の前の小さな水たまりが跳び越せず、まっすぐに歩こうとしてよろけ、そのうち幻聴に悩まされるようになった。
気合と根性で4時間睡眠を死守したあげく、心身に深刻なダメージを負ったのである。
坂口のこの逸話は、21歳のころの自分を綴った『二十一』というエッセイに出てくる。
ご関心のある方はインターネット上の「青空書院」で閲覧いただける。
ほんもののショートスリーパーは、気合や根性でめざせるものではない。
実は遺伝子レベルの話なのである。
ご存じの方もいることと思うが、これは近年カリフォルニア大学の研究チームによって発表され、大きな反響をよんだ。
- ①目覚まし時計なしで自然に起きられる。
- ②子どものころから短時間睡眠だった。
- ③それによって生活に支障が出ることはなく、心身は健康である。
こうした生まれながらのショートスリーパーは、同大学の調査資料によると、10万人に4人の確率で発生するとのことだ。
減らせるものなら睡眠時間を減らして、仕事や趣味に打ち込みたい。
向上心のある人ならそう思うのは必然といってよい。
しかし生まれながらのショートスリーパーを除いて、6時間以上の睡眠は、人体に欠かせない栄養源である。
医学的に実証されている以上、それを満たしたうえで、考えるべきは睡眠の質の向上と多相睡眠への取り組みであると思われる。
この記事の執筆者
本田 有明(ほんだ ありあけ)
本田コンサルタント事務所 代表
1952年、兵庫県神戸市生まれ。慶應義塾大学哲学科卒業後、社団法人日本能率協会に勤務する。経営事業本部、情報開発本部などに所属し、部長職を務める。1996年に人材育成コンサルタントとして独立。主に経営教育、能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事している。懇切丁寧な指導と明快な語り口調には定評がある。また作家として、小説・児童書の分野でも著作が多い。
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