古くから語り継がれてきた言葉や、かつて社会をにぎわせた出来事には、現代の仕事や人間関係を考えるヒントがあります。 本連載では、「温故知新」をテーマに、時代を超えて変わらない人や組織の本質を見つめ直します。 執筆者は、経営教育・能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に携わってきた本田有明氏。 小説・児童書の分野でも著作を重ねてきた筆者が、長年の経験と幅広い視点から、世代論や流行の言葉に振り回されず、人や組織を見つめ直すためのヒントをお届けします。
(文:D-OMNi編集部)
目次
前回のコラム「『短時間睡眠』に取り組むべきか」を読んだ友人から、感想がとどいた。 「短時間睡眠が日本人の悪しき傾向だということは、常識のようなもんでしょ? 短時間睡眠のことなんか考えているから、日本の労働生産性は低いんですよ」と。 なるほど。辛口のコメントだが、そのとおりと私はうなずいた。 ついでに、他の友人にもコメントを求めてみた。 すると、 ①短時間睡眠で成功した、かのように取り上げられる有名人がいるから、まじめな人ほど「では自分も」と模倣したくなるのではないか。 ②睡眠時間が長めだと「ナマケモノ」のように自己卑下する人がいるようだ。 ③起業家の多くが、若いころを振り返って「寝る間も惜しんで頑張った」とコメントしている。その影響は大きいと思う。 ④高市首相の短時間睡眠は、サッチャー元イギリス首相への憧れによるものですよね。 こんな趣旨の感想が寄せられた。
どれもうなずける内容だ。 高市首相が長く畏敬の念を抱いていたというマーガレット・サッチャー氏は、先進国で初めての女性首相であり、 サッチャリズムとよばれた新自由主義の一貫した政治思想やふるまいによって「鉄の女」と称された。 その強いイメージとは裏腹に、4時間睡眠で生まれた時間を、夫の衣類のアイロンがけなどにも活用したという。 このエピソードが、国民からの人気を高める一因になったことは、かつて私も本か雑誌で読んだ記憶がある。 高市首相が今年7月のSNSに記した短時間睡眠とアイロンかけの記事に、すぐサッチャー氏へのオマージュあるいは模倣を感じたものだ。 日本国内の反応は、サッチャー氏のときとはだいぶ異なったようだが。 歴史上の有名人にまつわる逸話や言葉に、短時間睡眠を推奨するかのようなものが多いのは事実だ。 たとえば、私が日ごろ管理職向けの啓発書ナンバーワンにあげている『自省録』に、こんな文言がある。 「明け方に起きにくいときは、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。『人間のつとめを果たすために私は起きるのだ』。自分がそのために生まれ、そのためにこの世にきた役目をしにいくのを、まだぶつぶついっているのか」 著者のマルクス・アウレリウスは第16代のローマ皇帝である。 この本で語りかけている相手は、すべて自分自身。 タイトルのとおり、自分を省みて「このように考えて行動しなさい」と説いている書である。 皇帝でありながら質素倹約を旨とし、時間があれば哲学研究にいそしんだ稀有の人格者であった。 上記の文章を見ると、眠いと言って二度寝するような者は意志が弱いと糾弾されているような気持ちになるのではないか。 同じ趣旨のものとして、発明家エジソンの言葉としてこんな厳しいものがよく引用される。 「私は毎日、18時間働くことにしている」。さらには「長く睡眠をとる者は怠慢である」なども。 こういう伝説級の人の逸話には、尾ひれがつきやすいので、そういう人もいたのか、程度の受け取りにしておいたほうがいい。 まじめな人の中には、「では自分も」と考えて短時間睡眠に取り組もうとする人もいるが、これは前回もふれたとおり無謀な挑戦なので、自重していただきたい。
前回の記事の校正を終えた翌々日、筑波大学の柳沢教授がラスカー賞を受賞された、との報が飛び交った。 この人は、知る人ぞ知る睡眠研究の第一人者で、ラスカー賞とはノーベル生理学・医学賞の登竜門とされる大きな賞だ。 受賞発表の報が2日早ければ、前回の記事で触れさせていただいたのにと思った。 この人は、テレビ番組にもよく出演され、睡眠に関する取り組みについて啓発的な話を披露されてきた。 いつも睡眠バッチリといわんばかりに大きく目を見開き、ユーモラスな語りを聞かせてくれる。 氏が監修した『睡眠の超基本』の目次から、見出しをいくつかピックアップしてみよう。 「世界一の睡眠負債を抱える日本人」 「昼間の眠けは世界標準では異常なこと」 「自称ショートスリーパーはほぼ睡眠不足」 「よく眠った人のほうが効率がよい」 「『寝る間を惜しんで』は命を削る」 内容を語らずとも、氏の主張は想像できるだろう。 そう。先進諸国と比べて日本人の平均睡眠時間が短いことに警鐘を鳴らし、もっと睡眠をとりなさいと説いているのだ。 こうした専門家の説に敬意を表したうえで、私はこんな言葉をモットーにしている。
体調の良し悪しや、ストレスの有無は別として、機嫌よく仕事にむかえているだろうか。 1日6~7時間の睡眠を確保し、可能であれば昼食後に、15分から20分程度の仮眠をとるようにしよう。 いつも不機嫌そうな顔をしている先輩や管理職は、それだけで職場の空気に悪影響を及ぼしている。 もっと爽やかに、軽やかに、ふるまってみよう。 まず睡眠時間の確保と質の見直しが、その「はじめの一歩」になることは間違いない。
この記事の執筆者
本田 有明(ほんだ ありあけ)
本田コンサルタント事務所 代表
1952年、兵庫県神戸市生まれ。慶應義塾大学哲学科卒業後、社団法人日本能率協会に勤務する。経営事業本部、情報開発本部などに所属し、部長職を務める。1996年に人材育成コンサルタントとして独立。主に経営教育、能力開発の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事している。懇切丁寧な指導と明快な語り口調には定評がある。また作家として、小説・児童書の分野でも著作が多い。
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