第5回 中小企業経営実践論:マネジメントの仕組みをつくる(上)

第5回 中小企業経営実践論:マネジメントの仕組みをつくる(上)
組織とマネジメント
2026/11/06
連載:成長する組織と人に共通する『行動原理』―覚悟と責任感と実行力―

成長を続ける組織や個人の背中を追うと、ある共通項が見えてきます。

それは、組織を率いる「覚悟」「責任感」「実行力」です。

本連載では、具体的なエピソードを手がかりに、意思決定の裏側にある葛藤と、行動を加速させるマインドセット(思考の型)を紐解いていきます。
変化が激しい時代だからこそ求められる、シンプルかつ強力な「成長の原動力」を解き明かします。

(文:D-OMNi編集部)

中小企業経営実践論:マネジメントの仕組みをつくる(上)

覚悟を「仕組み」に変える組織デザイン―成長に伴う「6つの危機」―

経営者の「覚悟」を組織の「仕組み」へ落とし込む

画像:AI制作によるイメージ画像

前回の連載では、経営者として重圧を引き受け、意思決定を下す「覚悟」について考えてみました。

しかし、どれほど熱い情熱や高い志を持っていたとしても、それが経営者個人の精神論にとどまっている限り、組織が持続的に動くことはありません。

中小企業マネジメントを成功させるためには、トップの決意を実効性のある制度や評価、業務フローといった「仕組み」へと転換させ、組織全体が自律的に駆動できるように整える必要があります。

中小企業の強みでありリスクでもある「シンプル構造」

大企業と中小企業の根本的な違いは、組織構造と意思決定のスピード、そしてトップの影響力にあります。

大企業が何層もの管理階層と複雑な承認プロセスを持つのに対し、多くの中小企業は、経営学者ヘンリー・ミンツバーグの組織構造論における「シンプル構造」に分類されます。
これは、経営者自身に直接的な意思決定が集中し、現場との物理的・心理的距離が極めて近いフラットな組織形態です。また、組織が小さくシンプル構造であるため、経営者の考えや人柄が良くも悪くも組織文化へ直結しやすい点も大きな特徴です。

このシンプル構造の最大の強みは、トップの判断ひとつで市場の変化や顧客ニーズに対して即座に対応できる機動性と柔軟性にあります。

しかしその反面、業務の標準化やマニュアル化が進みにくく、特定の個人や社長のカリスマ性に過度に依存する「属人化」や「情報共有の破綻」を生みやすいという構造的リスクを常に抱えています。

組織が成長し、事業や人員が拡大すると、この経営者を中心とした経営の進め方では、組織を円滑に運営することが難しくなっていきます。

グレイナーの組織成長モデルと「成長の逆説」

組織が拡大する過程で直面する構造的課題を予測する上で、経営学者ラリー・E・グレイナーの「組織成長モデル」は極めて示唆に富みます。

このモデルでは、組織は安定的に成長する「進化」の時期と、経営上の行き詰まりに直面する「危機(壁)」の時期を交互に経験しながら発展すると説明されています。

この成長過程は、次の6つの段階※に分けられます。

  • 第1期「創業期」 創業者主導の自由な経営で組織は急拡大します。しかし、創業者の力だけでは経営がうまくいかなくなる「リーダーシップの危機」が生じます。
  • 第2期「方向性決定期」 組織やルール化など方向づけによる成長の時期で、専門的管理を強化します。個人商店から組織化へ向かう時期です。しかし組織としての制度やルールなどのトップダウンが強まり、現場の「自主性の危機」が訪れます。
  • 第3期「委任期」 組織のトップダウンから現場へ大幅に権限移譲を進めます。しかし現場が自立することにより、全社方針の無視やセクショナリズムなどの「統制の危機」が生じます。
  • 第4期「調整期」 「統制の危機」のあと、組織のトップダウンではなく、本社主導の計画や評価システムで調整を進めます。しかし組織全体の手続きや承認が増えて「官僚主義の危機」で柔軟性が低下します。
  • 第5期「協働期」 協働のために部門にクロス機能やマトリクス組織で部門間の協働を促します。しかし密な協議や業務が過密になるなど、社員は消耗します。
  • 第6期「提携期」 外部との提携やM&Aで組織がさらに拡大します。しかし組織の多角化により自社の強みや理念を見失いやすくなります。
画像:筆者作成
このモデルが示す重要な洞察は、「過去の成長を支えた成功要因そのものが、次の段階では成長を阻む障害になる」という逆説的な構造です。

中小企業では、創業者による強力なリーダーシップは初期の推進力となりますが、従業員が拡大する局面では現場の主体性を奪う原因へと変質します。

経営者は自社が今どの段階に位置し、次にどんな危機が訪れるかを冷静に診断し、組織境界を越えたネットワーク型協働なども見据えながら、先手を打って組織構造と経営スタイルの転換を断行しなければなりません。


※グレイナーの組織成長モデルは、1972年に5段階のモデルとして提唱され、その後1998年に第6段階として外部組織との提携による成長が論じられました。

(次号へ続く)

 

この記事の執筆者

橋本堅次郎(はしもと・けんじろう)

日本文理大学学長

専門分野は経営学、組織変革、流通経営。「組織と人の成長に貢献する」が長年のミッション。小売業・コンサルタントファームを経て役員・管理職として食品業(東証1部)等の上場に携わる。 人材育成事業を起業後、2011年より日本文理大学経営経済学部教授として学生と社会人の指導、地域活性活動を行い、ミッションの実現に尽力している。2021年4月より日本文理大学学長に就任。

キーワード:組織チームコミュニケーション学び転機未来
悩み経営
連載名:連載:成長する組織と人に共通する『行動原理』―覚悟と責任感と実行力―
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