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対人社会サービス基礎調査報告書

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対人社会サービス基礎調査報告書2014』とは

対人社会サービス基礎調査報告書2014 わが国では、超高齢社会と人口減少社会を迎えて、人口のオーナス効果(少子高齢化による労働者数の減少が経済成長の足かせとなる効果のこと。)によって経済のパイが縮小することが大いに危惧される時代となっている。
こうした中で、今後のわが国経済・社会を活力あるものとするためには、公益社団法人経済同友会の「サービス化経済の推進で日本経済の再成長を!」研究報告(2011年6月)にもあるように、サービス業における顧客満足度の向上や価値共創性の増進が大きな課題となると思われる。
今回、本会がサービスに着目した背景には「第3次産業に就業する人が1961年では就業者全体の約4割であったものが、2010年には約7割を占め、しかもその数はさらに伸びると見込まれる」ことがある。今回の調査では、サービスの中でも今後重要性を増すことになる「対人社会サービス」に焦点を当てている。
一般的には、「対人社会サービス」は社会福祉の諸制度において法律に則って提供される看護・介護・生活支援などと理解されているが、私たちはこれを社会福祉に関連したものとして限定するのでなく、社会性が高い対人(個人)サービスにまで広げ、教育・観光・文化・娯楽なども「対人社会サービス」として考えてみることとした。(ここでいう「社会性」とは、「一個人の欲求や必要に応える行為が、そのまま社会の要望や要請に応えることに直結する」という意味である。)
また、合わせて、社会サービスを行政だけでなく民間企業も含めた多様な事業体によって提供されうる「事業性」と「革新性」を兼ね備えたものとして捉え直してみた。このように捉えると、民間企業も含めた多様な事業体によって提供されうる「事業性」と「革新性」を兼ね備えたものも「対人社会サービス」として捉えることが可能となる。
その一例を挙げると、郵便・宅配業では個別デリバリー性を活かした複合サービスを展開し、大手スーパーでは葬式や永代供養の代行などの「対人社会的なサービス」を行っている。また、家事代行業はますます「生活の質を高める支援」の意味合いを強め、娯楽や文化の分野は事業の社会性意識やそれに伴う顧客参加をサービスに組み込むことで「対人社会サービス」的な色合いを持つようになるであろう。
こうした現状も踏まえ、私たちは調査に当たり「対人社会サービス」を以下に示す特徴をもつこととして仮定した。
1)利用者の仕事や生活の質を高める支援により、社会の利益に役立つ価値を提供する役務
2)専門領域の知識と高度な対人技術によって、人が人に直接個別課題の解決を提供する役務
3)提供の過程において金銭的な対価だけでない感謝など目に見えないものも交換される役務
4)個人のニーズ(個別課題)と社会のニーズ(社会課題)の充足をつなげる役務
5)提供側の人と組織の社会的能力をも向上させ、信頼性と認知を高める役務
なお、調査では、現在存在するサービス領域を生活シーンごとに、次の五分類にて捉えることとした。
A 生活環境支援の領域と業種
B 経済生活支援・リスクヘッジの領域と業種
C 健康支援の領域と業種
D 楽しみ支援の領域と業種
E 成長・交流支援の領域と業種
今回の調査は、以上に挙げた分類について、それぞれの現状と今後の事業性等を展望する試みとして実施したものである。

「対人社会サービス基礎調査報告書」内容

  • はじめに(調査の前提)
  • 調査から確かめられたこと(調査結果要約) ※下記
  • 調査結果
  • ◆ 調査方法・回収状況
    ◆ 回答者のプロフィール
    1 サービス業の利用履歴と利用したいもの(問1)
    2 『対人社会サービス』にあてはまるサービス業(問2)
    3 利用したいサービスに共通する要素(問3)
    4 『対人社会サービス』の認知事例(問4)
    5 『対人社会サービス』領域への事業としての魅力・可能性(問5)
    6 『対人社会サービス』事業の領域別取り組み状況と取り組む予定や計画(問6)
    7 『対人社会サービス』についての見方や考え方(問7)
    8 『対人社会サービス』に従事する就業者にとっての魅力(問8)
    9 『対人社会サービス』に従事する人に求められる姿勢・能力(問9)
    10 『対人社会サービス』が事業として成り立つ要素(問10)
    11 『対人社会サービス』に関する意見等(問11)
  • 調査結果からの本会の考察と提言
  • 調査から確かめられたこと(調査結果要約)
    1 サービス業の利用履歴と利用したいもの(問1)
    (1) サービス業の利用履歴
      これまでに個人として利用したことのあるサービスは、「観光」、「交通」、「宅配」、「販売」、「医療」がそれぞれ80%以上と高く、以下「窓口」、「娯楽」、「美容」、「行政」が70%台で続いている。一方、「コンサル」、「業務代行」、「人材」、「IT」の利用はいずれも20%以下と低い。
      質問文で<業務ではなく個人として>と表記したことから、コンサルティングや業務代行サービス、派遣、ITシステム関連等の“ビジネス寄り”サービスが低位を占めたものと思われる。
    (2) サービス業で利用したいもの
      これから(も)個人として利用したいサービスは、「交通」、「観光」、「販売」、「宅配」、「医療」がそれぞれ70%以上と高く、以下「窓口」、「美容」、「娯楽」、「行政」、「冠婚葬祭」が60%台で続いている。一方、「コンサル」、「人材」、「IT」、「業務代行」はいずれも30%以下と低い。
      (1)と同様に、「コンサル」、「人材」、「IT」、「業務代行」等は、個人では少なく、法人またはビジネスで利用することがふさわしいと思われている様子である。
    2 『対人社会サービス』にあてはまるサービス業(問2)
      この調査で定義する『対人社会サービス』にあてはまるサービス業として、「医療」、「福祉」、「行政」がそれぞれ70%以上と高く、以下「教育」、「窓口」、「健康」(62.0%)が60%台で続いている。
      「IT」は『対人社会サービス』にあてはまるとする回答が唯一20%台で最も低く、これまでの利用履歴やこれからの利用意向の低さと同様に、個人として利用しやすい『対人社会サービス』とみなされていない姿がうかがえる。
      このように、いわゆる福祉系のサービスや福祉に近い(医療、健康等)領域を中心に『対人社会サービス』の概念が構築されており、ビジネスとして先行または定着しているようである。
    3 利用したいサービスに共通する要素(問3)
      今後(も)利用したいサービスに共通する要素は、「誰か(どこか)の専門的な知識やスキルを信頼して任せたい」が群を抜いて高く、「誰か(どこか)に頼まないと、自分ではコントロールできない」、「自分でもできなくはないが、頼めるものなら頼みたい」が続いている。一方、「誰(どこ)に頼んでも、成果に差が生じにくい」や「頼みたいけれど、自分(身内)で行うのが一般的だと、多くの人に思われている」、「少し前までは、誰か(どこか)に頼めなかったが、頼めるようになった」等は低い。
      サービスの受け手としては、頼む相手の「専門性」に信頼を見い出す傾向や、単なる外注ではなく、自力では達成できない(達成しにくい)サービスの提供を望む傾向が顕著となっている。
    4 『対人社会サービス』の認知事例(問4)
      認知事例としては、「福祉」関連の回答(介護サービス、高齢者支援、デイケアサービス等々)が22件と最も多く、以下「家事」関連(掃除、買物等代行、子育て支援等々)が10件、「教育」関連(外国人へのサービス等)と「資産」関連(年金プランナー等)が各7件などとなっているが、個別のニーズを表明するケースが33件と最も目立つ。
      当アンケート票の表紙で対人社会サービスについて説明したとはいえ、世の中に確固たる定義があるわけではないことから、回答者個人がたまたま体験した事柄が多く記されているようであるが、今後の調査研究における分類のあり方を模索するうえで、貴重な事例の記述となっている。
    5 『対人社会サービス』領域への事業としての魅力・可能性(問5)
      『対人社会サービス』事業の魅力・可能性について、「感じる」、「どちらかといえば感じる」と答えた割合は、“健康・自律支援の領域”(「感じる」43.2%、「どちらかといえば感じる」33.4%)が最も高く、“生活環境・自立支援の領域”、“リスクヘッジ・管理支援の領域”、“成長・いきがい支援の領域”がこれに続く。一方、“人的交流支援の領域”、“経済生活支援の領域”、“アミューズメント支援の領域”は比較的低い。
    6 『対人社会サービス』事業の領域別取り組み状況と取り組む予定や計画(問6)
      回答者の現就業先における、『対人社会サービス』領域別の事業取り組み状況と今後の取り組み予定については、“健康・自律支援の領域”で「現在、事業として取り組んでいる」(26.7%)、「今後、事業として取り組む予定(計画)がある」(7.9%)がともに最も高い。
    なお、「現在、事業として取り組んでいる」は“リスクヘッジ・管理支援の領域”、“成長・いきがい支援の領域”、“アミューズメント(楽しみ)支援の領域”、“生活環境・自立支援の領域”でもそれぞれ20%強を示している。
      その他の領域を除いた7つの領域のそれぞれについて、事業としての魅力・可能性を「感じる」と答えた層に絞ってみると、“アミューズメント支援の領域”に事業としての魅力・可能性を「感じる」層による「現在、(“アミューズメント支援の領域”を)事業として取り組んでいる」(41.4%)が最も高い。このことから、アミューズメント系領域における事業化の進展ぶりがうかがえる。
    7 『対人社会サービス』についての見方や考え方(問7)
      『対人社会サービス』への見方や考え方として、「今後、身の回りのサービスの中でますます重要になる」(57.8%)、「必ずしも明示されていなくても、それらと同様の仕事や業務もある」(49.2%)、「行政が行うより、民間がビジネスとして行うほうが効率的である」(45.0%)、「従事する就業者とサービス利用者の意思の疎通を図ることが重要になる」(41.3%)の順に回答が寄せられた。
    一方、「『対人社会サービス』は、これまでの「サービス業」という枠を超えて、例えば製造業や建設業、小売業などにも広がりつつある」(24.9%)、「事業として『対人社会サービス』のジャンルを意識的に取り込んでいこうとする傾向が、業種・業態を問わずますます増える」(26.1%)、「自分の現在の就業先(の業務)にも関係するケースが増える」(26.7%)については、やや低位に留まっている。
    8 『対人社会サービス』に従事する就業者にとっての魅力(問8)
      従事する就業者にとっての魅力をたずねたところ、「ある程度の専門性を発揮できる」、「相手の事情に沿ったケースバイケースのサービスを提供できる」、「その事業に従事していることによって社会貢献していると思える」という、専門性や社会貢献性に関する項目にそれぞれ過半数の回答が集中した。就業者にとって就業意識を支える原動力は、「専門性」、「個別(ケースバイケース)対応力」、「社会貢献性」の高さといえそうである。
    一方、「多くの金銭的対価が得られる」、「非正規労働やアルバイト的な短期就労ではなく、正規の就業者で行われる」、「女性にとっては、より能力やスキルを発揮できる分野である」、「個人の能力・スキルと組織の能力・スキルを同時に高めることができる」は、低位に留まっている。
    9 『対人社会サービス』に従事する人に求められる姿勢・能力(問9)
      従事する人に求められる姿勢・能力としては、「コミュニケーション力」に90%の回答が寄せられ、以下「状況把握力・適応力」、「共感力・想像力」、「専門知識・スキル」、「課題解決力」、「実行力」が50%台で続いている。それらに比べて「チャレンジ精神」、「楽観性(ポジティブ精神)」、「主体性」への回答は低く、能動的な姿よりも双方向性や受け身の姿勢が求められる傾向にあるといえる。
      問8に見るようにサービスを提供する側は“高度な専門性”や“社会貢献意識”といった姿勢を事業における魅力とするが、サービスを受容・購入するサイドからは、まずは「コミュニケーション力」が求められるなど、『対人社会サービス』の提供側と利用側で対照的な要素も浮かび上がることとなっている。
    10 『対人社会サービス』が事業として成り立つ要素(問10)
      『対人社会サービス』事業の成立要素は、「利用者の仕事や生活の質を高める支援を通じて、社会の利益に役立つ価値を提供している」(57.4%)を筆頭に、「目的として、もしくは結果として個人のニーズ(個別課題)と社会のニーズ(社会課題)の充足をつなげている」、「専門領域の知識と高度な対人技術によって、人が人に直接個別課題の解決を提供している」、「役務の提供の過程において、金銭的な対価だけでない感謝など目に見えないものも交換されている」、「サービスを提供する過程で、提供側の人と組織の社会的能力をも向上させ、信頼性と認知を高めている」の順となった。
      ただし、各項目への回答率の差は小さく、ここであげた5つの要素のいくつかが重層的に絡み合うことを通して、事業としての成り立ちが認知され、同時に領域やジャンルに関する分類も明確にされるものであろうことがうかがえる結果となった。
  • 調査結果からの本会の考察と提言
    ≪考察≫
    (1) 対人社会サービスの魅力と可能性、事業の成立要素について
       対人社会サービス領域については、現状のところ、生活環境、健康支援、経済生活支援の各領域が先行している。
    対人社会サービスは社会性を追求する事業であり、「利用者の仕事やQOLを高める支援を通じ社会の利益に役立つ」、「個人のニーズと社会のニーズの充足をつなげる」、「専門領域の知識と対人技術により個別課題を解決する」、「金銭だけでない感謝など目に見えないものが交換される」といった要素を事業者は充足させることが必要である。
    (2) 対人社会サービスの定義、そして意識と実態について
       対人社会サービスは、「多くの人が関心を持ち、自分ゴトであると考える課題について、組織または個人が専門性を発揮して解決する、あるいは解決を支援するサービス」である(仮定義)。そして、「人と人との関わりの中で、専門性を活かして相手の事情に合わせて直接提供する役務」として、相手を慮って尽くすことをベースにして、次の意識と実態に関わる特徴を備える。
       1) 「社会性」の意識として、サービスの従事者/提供者の意識は、「社会貢献の実感」に左右され、自分の仕事が「社会公共からの要請に応える仕事であり、課題解決に寄与している」と意識される場合、従事者/提供者は動機づけられる。
       2) 「社会性」の実態については、「安全と安心を守る仕事」などという言葉で説明されたり、企業のミッション・ステートメントで示されたりするように「社会サービス」と認識されないまま行われているケースも多く、対人社会サービスはすでに世の中にある程度浸透している。

    ≪事業展開へ向けての提言≫
    (1) 「対人社会サービス」が直面する課題について
      今後、対人社会サービス事業を成長させるためには、
    1) サービス提供方法についての改革
    2) 顧客との関係性づくりと継続の方法の模索
    3) 提供する側とされる側双方の満足感の高め方の模索
    4) 顧客共同・協働の仕組みづくり
    5) 機械やマニュアルに頼らない人間性を活かした提供方法
      などについて明らかにすることが必要である。
    (2) これからの事業展開に当たっての基本的方向性について
     人口オーナス現象(少子高齢化による労働者数の減少が経済成長の足かせとなる現象のこと。)が懸念されるいま、企業や団体が新たに対人社会サービス領域で事業展開する場合の基本ポイントとその方向性は、次のとおりである。
    1) 信頼関係づくりが必要
     対人社会サービスの成長にあたり重要となる点は、社会的課題を自分ゴトとして考えるクライアント(顧客)を増やし、単なる「顧客」「受給者」「消費者」から「支持者」「共同提供者」「共同経営者」へと変えていくことである。このため顧客との信頼関係を構築することが必要である。
    2) サービスの共創戦略が必要
     「課題先進国」日本が直面する諸課題の解決は、民間企業であるか行政体であるか、サービス業であるか製造業であるかに関わらず、産官学、公民私などの各セクターが、個性と専門性を持ち寄り「新しいサービスと新しい仕組み」を創ること、そしてそのことを可能にしていく場(フューチャー・センター)を設けることが重要であり、そのための共創戦略が必要となる。
      3) 女性の活力を一層発揮してもらうための人材戦略が必要
     対人社会サービス事業は、女性が活躍する事業である。女性の就労機会を増やし、男女の役割分担の高度化を進めて活力ある社会とするためにも、この新たな事業の捉え方・切り口は有効である。また、女性に優位性のある「コミュニケーション力」や「気遣い・心遣い」といったスキルを一層発揮してもらうことが必要であり、このための方策も課題となる。