平成29年11月時点の全国の地方自治体(東京都特別区を含み、都道府県・政令市は除く)
1,719団体を対象に郵送による質問紙調査を実施。(有効回答数 658団体)。
全10分野について調査を行った。
1.<重点を置く政策課題> / 2.<重点的に取り組んでいること>
3.<環境変化や行政運営上の諸課題に対処するため重要なこと> / 4.<政策づくりと協働>
5.<現時点で実施している協働事業の相手先> / 6.<協働事業の手法>
7.<総合計画と地方版総合戦略策定の関係性> / 8.<人事に関する問題事項の状況>
9.<3~5年先に職員が発揮すべき重要な能力> / 10.<職員の専門性・創造性を高める目的で実施中の制度>
1.<重点を置く政策課題>
◎現時点で重点を置く政策課題としては、「住民生活の安定化」のために「福祉向上」と「防災力強化」が求められ、そのための手段として「産業振興・企業誘致」「過疎対策・定住促進」「地域活性化」が重要となっていると捉えることができる。
◎3~5年程度先に重要な、または重要性を増す政策課題としては、「過疎対策・定住促進」が最多(51.2%)、これに「産業振興・企業誘致」の48.2%、「高齢者福祉・介護」の43.8%が続く。3~5年程度先に重要、または重要性を増す課題と現時点の重点課題との間に共通性が認められる。
2.<重点的に取り組んでいること>
◎「地方分権の進展を受け重点的に取り組んでいること」と「3~5 年程度先に重要であり注力すること」を総合的に見た場合、上位には「公共施設の統廃合・再配置」「事務事業の統廃合・見直し」などの、事業のスクラップアンドビルドに関連する事項と、「正規職員の能力開発・能力発揮」「職員の意識改革」「正規職員数の適正化」などの人材に関連する事項が並ぶ。職員数定員適正化が進められる中、効率的かつ有効的に事業を展開するには、既存事業の見直しと再構築、そして遂行するための人材育成が不可欠なものとなっていることがうかがえる。
3.<環境変化や行政運営上の諸課題に対処するため重要なこと>
◎環境変化や行政運営上の諸課題に対処するため重要なことに関しては、回答団体1団体当たりの平均選択数は「5.9個」となった。内容としては「住民意見の把握」「職員のモチベーションの維持・向上」「組織内における経営戦略の浸透」「職員意識の統一」「総合計画と他の個別計画の融合・一貫性」の5課題を過半数の団体が指摘するなど、住民との情報共有化と職員活用(動機づけ)の重要性が強く認識されている
4.<政策づくりと協働>
◎「現在、企業・団体と協働して実施していること」と「今後、協働が必要と思うこと」の関係性から総合的に見た場合、今後、大きく増えそうな傾向が想定できるもの・こと(事業内容)は「議会改革」が最も大きい(変化率267ポイント)。その他、変化率が100ポイントを超えているもの・ことは「都市再生対策」と「中心市街地活性化」となった。いずれも住民等との間で協働が欠かせないものであり、今後協働する機会が増える可能性があることが窺える。
5.<現時点で実施している協働事業の相手先>
◎現時点で実施している協働事業の相手先について、上位6主体は「自治会、町内会」(86.0%)、「住民活動団体」(69.6%)、「社会福祉協議会、社会福祉法人」(61.6%)、「NPO法人」(58.7%)、「農協、漁協、商工団体、生協」(57.1%)、「民間企業」(57.0%)。これら6主体をはじめとしてすでに社会的課題への対処に様々な主体との協働が実施されている。
6.<協働事業の手法>
◎協働事業の手法として採用したことのあるものとして、過半数を超える団体が「実行委員会方式」「住民参加によるワークショップ・政策提案」「団体への事業協力等依頼(部署別に実施)」「地域自治組織との連携」「産官学連携」の5手法を回答した。
◎「協働事業の手法として採用したことのあるもの」と「協働事業の手法として今後採用を検討しているもの」を総合すると、今後、増加・浸透する可能性がある手法は「ソーシャル・インパクト・ボンド」(変化率 375.0ポイント)であり、これに「寄付金型まちづくり活動支援」(変化率 81.6ポイント)と「分野 横断型プロジェクト」(変化率 66.7ポイント)が続く。
7.<総合計画と地方版総合戦略策定の関係性>
◎地方版総合戦略を策定するにあたり8割以上の地方自治体は総合計画との関係性や統一性を重視している。地方版総合戦略策定にあたり、総合計画をどの程度参考にしたのかについて、最多は「総合計画に基づいて地方版総合戦略を策定した」の32.1%、これに「総合計画に掲げた分野の中で特定の分野に絞って地方版総合戦略を策定した」が30.1%で続き、この2項目が主となっている。
8.<人事に関する問題事項の状況>
◎各団体が認識する現時点での人事に関する問題事項では、「業務の多様化と高度化へ対応できる職員を育成することが困難である」(261団体)、「職員のやる気を引き出したり喚起したりするモチベーションのマネジメントが困難である」(209団体)、「正規職員の数が不足する」(141団体)が挙げられる。「業務の多様化と高度化へ対応できる専門性を兼ね備えた人材の育成」や「職員に対するモチベーションマネジメント」に関する人事問題が顕在化している。
9.<3~5年先に職員が発揮すべき重要な能力>
◎3~5年先に職員が発揮すべき重要な能力としては、最多は「コミュニケーション能力(庁内外に対する)」の52.3%。以下、「住民との協働能力」の43.5%、「政策立案力」の40.4%、「業務に関連する広範な知識」の39.5%、「業務改革・変革力」の38.1%、「折衝・調整力(庁内外に対する)」の38.0%と続く。これら上位6能力は、多くの地方自治体に共通の近未来における重要な発揮能力である。
10.<職員の専門性・創造性を高める目的で実施中の制度>
◎地方分権の時代へ対応するために多くの自治体が実施中の制度は「人事評価制度(期間評価)」(85.1%)、「国や県への派遣制度」(75.9%)、「OJT(職場で行う教育・研修)」(75.1%)、「Off-JT(職場を離れて行う教育・研修)」(62.4%)である。
提言
以上の調査結果を基に、地方自治の時代を切り拓くために以下のことを提言する。
1.環境変化や行政運営上の諸課題への対処のため人材育成と協働を進める
これからも多種多様な問題を抱えることになる地方自治体には、抱える各種課題に的確に対処するために、効率的で有効性の高い行政運営を追求し続けることが求められている。経営資源の不足を補うためには、いままで以上の住民との情報共有化と協働、そして民間との協働による新しい公共を実のあるものとする取組が欠かせない。
今後も、行政経営効率の高度化および財政健全化に向けての諸施策の実行に注力するよう外部経営資源の有効活用を推し進める等、総合的な観点からの取組みを一層強化する。
2.未来に活躍する住民目線に立つ多様な人材を育成する
有限の経営資源である職員は、専門家として行政実務に精通すると同時に、住民等との間でのコミュニケーションを密にとりながら、多様な見方のもとで政策立案・実施・評価できることが必要である。
このためには「広い視野に立って未来を切り拓くことのできる職員」を育成する他、「住民目線で協働できる職員」であると同時に、「住民等と一丸となって仕事することができる職員」「常に自らを切磋琢磨し経営感覚を発揮しながら仕事することができる職員」であることを追求したい。
職員の専門性・創造性を高めるため、OJTをはじめとする人材育成・能力発揮策を組織全体で構築・実践することを一層進めるとともに、多様性を増す職員に対するモチベーションマネジメント、メンタルヘルスを含む健康管理についての取組みを強化する。
3.組織の縦割りや分野を超えた取組みと地域の諸課題の掘り下げを進める
上記の2項に関連して協働をより効果的に行うためには、組織の縦割りや分野を超えた取組みと地域の諸課題の掘り下げを行うことが必要である。
組織の縦割りや分野を超えた取組みを行うことで、担当部署の担当領域に限定されることなく、住民・地域団体との活動状況をトータルに把握・分析することができるようになる。
また、課題の掘り下げを行うことで、誰が何をなすべきなのか、課題解決のためにどのような力を持ち寄っていくことができるのかについての検討を深め、連携を具体的につくり出していくことができる。
縦割型の組織から柔軟性のある組織への変貌、そして分野を超えた取組みと地域の諸課題の掘り下げを展開することにより、今よりも協働の幅を拡がる。このことを行うことで行政課題を解決する取組みを一層強化する。
詳細は「調査研究報告書」をご覧ください。
URL
http://www.noma.or.jp/report_home/tabid/239/Default.aspx